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107
重田💋(omoda)
498
零斗/ちょこれぃと
260
「な、なんで……っ!」
恐怖に見開かれた黒い瞳。
豪奢な天蓋付きのベッドを取り囲むように、炎がパチパチと燃え盛っていた。
黒煙が室内を満たし、視界がぼやけていく。
熱い。
息ができない。
逃げようともがくジントを、一糸纏わぬ白い腕が力強く抱き締めていた。
白銀の髪と瞳を持つ男、ジュウタロウ。
その腕は温かく、耳元で囁く声は、恐ろしいほどに甘く優しかった。
「これでようやく、あなたも私もすべてのしがらみから解放される。共に聖なる世界へ行きましょう……」
「ふざ、けんな……っ!」
抵抗するジントを、ジュウタロウはさらに強く抱き締めた。
逃げ道など、どこにもない。
彼はジントの左手をそっと取り、指輪に嵌められた漆黒の宝石へ、美しい唇を寄せた。
「……ジント。その石の傷は、あなたが重ねてきた痛みの数ですね。どうか、これがあなたにとって最後でありますように……」
伏せられた銀色の睫毛が、かすかに震える。
「愛しいあなたを……誰にも利用させはしない……!」
その言葉に、ジントは息を呑んだ。
ーー誰にも、利用させない。
そのために、すべてを終わらせるというのか。
自分の意思など、最初から存在しないかのように。
(また、ダメだった……)
薄れゆく意識の中、ジントはジュウタロウの背中に必死で爪を立てた。
指先の漆黒の宝石が、燃え盛る炎の赤を映して妖しく光る。
(ハヤトに首を絞められ、ダイチに毒を飲まされ、シュンタに胸を刺され……そして最後は、ジュウタロウと一緒に炎の中で丸焼きかよ……)
笑うしかなかった。
いや、もう笑う力さえ残っていない。
四人のうち、誰か一人を選べば救われると思っていた。
誰か一人くらいは、自分をまともに愛してくれるのだと信じていた。
けれど、誰を選んでも結末は同じだった。
結局、誰も自分を救ってはくれなかった。
ジュウタロウの胸の中で、視界が完全な闇へと落ちていく。
その時。
――カチリ。
最後に響いたのは、指先から伝わる冷たく乾いた音だった。
指輪の内部で、また一つ、亀裂が走る。
(……あ、まだ、終わりじゃない……?)
遠のいていく意識。
(また繰り返すのか……。でも、きっともう次が、本当に最後の人生だ……)
そうして、ジントの四度目の人生は幕を閉じた。
「……っ、はっぁあぁ……っ!」
荒い呼吸とともに、ジントは勢いよく跳ね起きた。
見慣れた自室。
眩しい朝陽が差し込んでいる。
額に浮かぶ汗を拭い、乱れた呼吸を整えながら、ジントは急いで左手を見た。
そこにはいつもの指輪がある。
だが漆黒の宝石の表面には、蜘蛛の巣のように禍々しい亀裂が走っていた。
今にも砕け散りそうなほど、深く、細かく。
「……やっぱり戻った。めでたく五回目かよ……」
ジントはベッドの上で、がっくりと肩を落とした。
(チッ、ジュウタロウの奴、ふざけやがって……!)
瞼の裏には、まだ赤い炎が焼き付いている。
むせ返るような煙の臭いも、肌を焼く熱も。
そして、耳元で囁かれた甘い声も。
全てが生々しく肌にこびりつき、簡単には消えてくれない。
(あいつは……あいつこそは違うと思ったのに……っ!)
これが最後だと信じて挑んだ、四度目の人生。
今度こそ、信じてみようと思った。
今度こそ、正しい相手を選べば生き残れるのだと。
けれど、結果はこのざまだ。
(……ふざけんなよ、マジで)
ジントは片手で顔を覆い、長いため息を吐いた。
怒りも、悔しさも、絶望も、リセットされたからといって簡単には消えない。
それでも、いつまでもここで立ち止まっているわけにはいかなかった。
――コンコン。
「ジント様、お目覚めですか?陛下がお呼びです」
扉の向こうから、従者の声が響く。
「ああ……。わかってる」
(わかってるさ。こちとら五回目なんだから……)
ジントはゆっくりとベッドから降り、姿見の前へと歩み寄った。
鏡に映るのは、雪のように白い肌に映える漆黒の髪と、すべてを吸い込むような大きな黒い瞳。
二十歳。
小国ニゲル王国の第三王子。
その美貌から、『漆黒の薔薇』と謳われる男。
可憐で、儚げで、見る者の庇護欲をそそる容姿。
これまで、何度も自分を窮地から救い、同時に破滅へと導いてきた武器だった。
(なら、これを存分に活かしてやる)
ジントは鏡の中の自分を見つめた。
もう、誰かに救ってもらうことを期待するのはやめだ。
誰かの愛情にすがり、その腕の中で生き延びようとするのも。
そんなものに、何度も命を預けた結果がこれなのだから。
「ふふ……」
ジントは優しく、けれどどこまでも冷たく微笑んだ。
王城の執務室では、父王と兄が待ち構えていた。
そして、ジントが部屋に入るなり、聞き飽きた言葉を口にする。
「今日のパーティーの重要性を分かっているのだろうな。魔晶石の利権を狙う四国の王子たちの中から、我が国に最大の益をもたらす男を一人選び、手懐けるのだ」
(選べ、ねえ……)
ジントは内心で鼻を鳴らした。
四人の王子の中から、ニゲル王国にとって最も有益な相手を選ぶ。
父王にとっては、ただそれだけの話なのだろう。
そこに、ジント自身の気持ちなど必要ない。
誰を選ぼうが、どんな結末を迎えようが、彼らにとって重要なのは国益だけだ。
「かしこまりました、父上。我が国ニゲルのために、しっかりと『値踏み』してまいります」
ジントは完璧な微笑みを浮かべ、恭しく一礼した。
そして、執務室を辞した。
扉が閉まる。
誰もいない廊下へ一歩踏み出した瞬間。
「チッ、めんどくせぇ……!クソ親父どもは何度同じセリフ吐かせるんだよ。どいつもこいつも、俺をいいように利用するだけだ!」
盛大な舌打ちとともに毒を吐く。
先ほどまでの可憐な王子の面影はない。
けれど、その漆黒の瞳に、かつての絶望はなかった。
あるのは、冷え切った怒りと、明確な意志。
「……いいよ。どうせ最後の一回だ。あの野郎ども、全員まとめて俺の掌の上で地獄に叩き落としてやるよ……」
助けてもらうために王子を選ぶのは、もうやめだ。
愛されるだけの被害者でいるのも、今日で終わりにする。
ハヤトの武力も。
ダイチの知略も。
シュンタの純粋な愛情も。
ジュウタロウの秘術も。
過去四回の人生で知ったことは、何一つ無駄にしない。
相手の欲望を知っているのなら、それを利用すればいい。
相手の弱点を知っているのなら、そこを突けばいい。
愛されることが自分を縛るのなら、その愛情さえ武器に変えてやる。
黄金の獅子も、蒼碧の賢星も、紅の狂剣も、白銀の魔導師も。
今度は、ジントが彼らの思惑を利用する番だ。
彼らが自分をどう扱おうとしたのか。
どんな結末を望んでいたのか。
そのすべてを知ったうえで、彼らの予想を裏切ってやる。
ジントは左手を握り締めた。
指輪の宝石に走る亀裂が、朝陽を受けて鈍く光る。
残された時間は、もう多くないのかもしれない。
それでも、立ち止まるつもりはなかった。
死に戻りの五回目。
これが最後のゲームだ。
仕掛けてきたのは王子たち。
でも、最後に笑うのは。
――俺だ。
ジントは指輪を握り締め、妖しく、冷たく微笑んだ。
コメント
3件
comiさんが以前より書いていた可愛らしい💛さんとは違った、男らしさの滲み出る💛さんが見れて、わくわくが止まりません…!
# 感想 えっっっ待って待って待って!!!😭🔥🔥🔥 プロローグから既に心臓ギュンギュン言ってるんだけど!?!? ジュウタロウの「共に聖なる世界へ行きましょう」が怖すぎて美しすぎて震えた… しかもジント、4回も死んでるってマジ?しかも全員違う♡♡♡れ方??? 「首絞め・毒・刺す・焼き」って…どんな地獄ルートやねん!! でもラストの「俺の掌の上で地獄に叩き落としてやる」で全部ひっくり返る感じが最高にエモい!!! 五回目のジント、覚醒したね…推せる、マジで推せるわ🥺💕 続き即読みたい!!