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もな
278
羽海汐遠
12,218
サイトが落ちた日
通知音が、
一斉に鳴る。
画面が更新され、
読み込みの円が止まる。
立ったまま端末を見下ろす。
ベージュのコートは前を留めず、
内側の布がわずかに揺れている。
ズボンは少し長く、
靴の甲に触れて折れている。
髪は整えたつもりでも、
外に出た風で形が崩れている。
再読み込み。
反応しない。
周囲でも、
同じ動きが増える。
立ち止まり、
端末を操作する手。
ワードクラフトが、
落ちたらしい。
理由は、
すぐに流れてきた。
億する効果が、
手頃になった。
短い時間だけ。
数量制限なし。
誰もが、
同時に触れた。
それだけのこと。
列はできない。
声も上がらない。
ただ、
指が止まる。
画面は暗い。
購入も、
確認もできない。
一瞬の沈黙のあと、
人の流れが戻る。
諦めた人。
待つ人。
何事もなかったように歩く人。
自分は、
端末をしまう。
買えなかった、
という感覚は薄い。
安くなったことより、
落ちた事実のほうが残る。
あれだけの人が、
同じ言葉を、
同じ瞬間に求めた。
それだけで、
十分だった。
レキシリーダには触れない。
今日、
付け加えられた言葉はない。
それでも、
街の空気は少し重い。
誰かの内側で、
届かなかった効果が、
同時に止まった日。
サイトは、
しばらくして戻るだろう。
だが、
この瞬間は、
もう再現されない。
落ちたのは、
仕組みだけではない。
値段が下がったことで、
言葉の重さが、
はっきり見えてしまった。
サイトが落ちた日。
それだけの出来事が、
なぜか、
長く残る。
コメント
1件
うわ、これめっちゃ刺さるやつだ……。日常の一瞬を切り取って、しかも「サイトが落ちる」っていう今どきの現象を詩的に描いてるのがやばい。安くなったから殺到したっていうより、「同じ瞬間に同じ言葉を求めた人がこんなにいた」って気づいたシーンが特に好き。物語としての派手さはないのに、読んだ後にずっと残る空気感がある。24話でここまで静かに深い話を持ってくるの、柘榴さんのセンスだなって思ったわ。