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6
マキ
100
#あやかし
がくじゅつてき・あかげ
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ねこさん⛄️
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どうしてこんなことになっちゃったの? 天照大御神様ににこやかにお菓子を勧められながら、私は冷や汗をかいていた。
○o。..。o○
九さんと何度も打ち合わせして、私は段取りを頭に叩き込み、ヤカは入念に庭を手入れして、会合の日を迎えた。昼下がり、お茶とお菓子を手元におしゃべりするにはちょうどいい時間。東屋のバラはさらに咲き誇り、風が金木犀の香りを運んでくる。
お茶とお菓子を出す要員になった矢車ちゃんと薄荷ちゃんは、ガチガチに緊張している。
「ちゃんとできるかなあ……」
「絶対失礼のないようにしなきゃ……」
私は二人に声をかけた。
「落ち着いてやれば大丈夫よ、でもやることたくさんできても急いじゃダメ、急いては事を仕損じまくるからね」
そういうことは、バイト戦士だったころに身に沁みている。
九さんも言った。
「お前たちには妾直々に礼儀を仕込んだ、胸を張って対応するのじゃ」
そんなことを話しつつ、東屋の近くで天照大御神様と宇迦之御魂神様が来るのを待っていると、曇り気味の空がいきなりパーッと開けて、青空がのぞき、日差しが注いだ。
びっくりしていると、いつの間にか東屋の近くに2人の女性が立っていた。どちらもゆったりした服を着て、長い髪をきれいに結い上げ、1人はなんだか疲れた顔、1人はなんだか緊張した顔をしている。疲れた顔の女性の方が、私たちに笑いかけた。
[今日は場所を借りてすまないな、牧之原真希。我が天照だ]
この人が!? 日本で一番えらい神様!?
「い、いえ、いくらでもどうぞ、いろいろと準備いたしましたので……」
九さんが2人に深々とお辞儀をした。
「天照大御神様、宇迦之御魂神様。お越しいただき誠にありがとうございます。今茶と菓子を運ばせます、しばしご歓談を」
やや緊張の面持ちの女性の方が[伯母様]と天照大御神様に話しかけた。こっちの方が宇迦之御魂神様か。
[九たちに準備させております、どうぞお席へ]
[おお、では]
宇迦之御魂神様が席を引き、天照大御神様は当然のように座り、宇迦之御魂神様は対面に座る。矢車ちゃんと薄荷ちゃんがカチコチの動きで和菓子と煎茶をお盆に乗せて運んできた。天照大御神様が[牧之原真希]と私に優しく声をかけた
[お主も座るとよい。九、この娘の茶と菓子も用意せよ]
「はい、ただいま用意いたします」
え!? なんで!? 後半からじゃなかった!? 私、神様の会合に参加するような身分じゃないんだけど!?
九さんが私に強めに言った。
「牧之原、座れ。天照大御神様のご厚意を無下にするでないぞ」
「じゃ、じゃあ、失礼します……」
私は、天照大御神様と宇迦之御魂神様2人に直交する脇の席に座った。私の分のお茶とお菓子もすぐに矢車ちゃんが持ってきてくれて、天照大御神様と宇迦之御魂神様は茶と菓子を楽しみだした。なんとなく間が持たなくて、私は二人に言った。
「あの、お茶もお菓子もちゃんと選びました、お口に合えばいいですが」
二人とも私に微笑み、天照大御神様が言った。
[十分よい味だぞ、よく選んでくれたな]
天照大御神様は、とらやの羊羹を黒文字の楊枝で切って口に運び、つぶやいた。
[茶も菓子も、生きるのに必ずしも必要でない。そういうものがちゃんと作られているのは、いいことじゃのう]
宇迦之御魂神様が、少しためらいつつも天照大御神様に言った。
[しかし、伯母様。もう少し日を弱めていただかないと、いずれこういうものも作れなくなってしまいます]
天照大御神様は大きくため息をついた。
[宇迦之。いつも言っておるが、我は別に日を強くしておらぬ。空気のせいだ、空気がどんどん熱を蓄えて……]
空気……あー、CO2か。私は、恐る恐る聞いてみた。
「その、やっぱり、温暖化ですか?」
[そうじゃ。お前たち、化石燃料とかいうのを使うのを今すぐやめてくれんかのう]
「い、今すぐは無理ですね……」
[わかっておる、言ってみただけだ]
天照大御神様は宇迦之御魂神様に目線をやった。
[まあ、そういう訳じゃ、宇迦之よ。五穀豊穣に関しては、お主の雲と雨と土で何とかしてもらうしかない]
[努力いたしますが、こちらとしても制御が追いつかず……それに、米が豊作すぎても作り手たちの生活が立ち行きませぬ]
[その辺りは、人のまつりごとに任せるしかない。いつ作れぬ年になるかも分からぬし、作れる時に作らせておくのは悪くなかろう]
[それは、確かにそうですが]
[我もやれることはやる。お前もやれることをやれ]
そして、天照大御神様は優しい目で私を見た。
[ほれ、お主も食べるとよい。それほど固くならなくてよい]
「で、ではいただきます……」
私はとりあえず薄氷をかじった。和三盆の風味のある甘みがさらっと舌に溶ける。すごくよくできたお菓子なのに、なのに緊張して全然味わえない!
天照大御神様が聞いてきた。
[お主、今の暮らしに不足はあるか?]
不足、不足ねえ。
「ええと、体力はすごく不足してますけど、でも私は相当恵まれてる方かなと……」
[そうか?]
「私、お金だけはありますし、助けてくれる人もいますし。どっちもない人はたくさんいますし、それなのにずっと物価高だし、戦争で石油ずっと高いし、他の国でも戦争ずっと続いてるし、そういうのに巻き込まれてる人の方がよっぽど大変かと……」[そうか]
天照大御様は、私を見て微笑んだ。なんで笑うんだ?
[……我はな。この国の神ではあるが、他の国のことはあまり関われない。しかし世界はつながっているから、他の国のことでこの国が困ることもあるだろう。そもそも、この国の輪郭も時により移ろう。我にできることは、あまり多くはないのだ]
「そうなんですか……」
まあ確かに、世界的に見れば日本なんて200近い国のひとつでしかないわけで、日本で一番えらい神様でも、できることは限られてるかも。
天照大御神様が言った。
[そろそろ洋菓子も欲しいな]
九さんがすっと寄ってきた。
「今お持ちいたします。コーヒーと紅茶の用意がありますが、いかがなさいますか?」
[コーヒーを頼もうか]
[九、こちらは紅茶で]
「かしこまりました」
飲み物もお菓子もすぐに運ばれてきた。天照大御神様は、宇迦之御魂神様に龍神と相談して雨を調節せよとか他の水神にも話を通してできるだけ洪水を防げとかいろいろ話していて、私は口を挟むときではないなと判断した。だから小さくなって、たまにコーヒーを飲んでいたんだけど。
2人の話が一段落して、宇迦之御魂神様がクルミッ子をつまみながら言った。
[九から聞いたが、お主の郷土菓子だそうだな、これは]
「はい、おいしくて評判なんです」
[しかも品薄だそうだな、よく用意してくれた]
「あ、いえいえ、お口に会えば幸いです」
天照大御神様がコーヒーを一口飲んで、宇迦之御魂神様に言った。
[宇迦之。この娘に教えてやれ]
[はい、伯母様]
宇迦之御魂神は私を探るような目で見た。
[牧之原真希。薬師如来の霊薬を飲んでどうだ?]
「そうですね、いろいろ体にいい効果はあるんですけど、肝心の体力はあんまり……」
[私はな、いろいろな「もしも」を見ることができる。もしあの時誰かと出会わなかったら、もしあの時命を拾っていたら、そういう「もしも」だ]
「はい」
もしも? IFの世界線ってことかな?
[お主はな。もしも霊薬を飲んでいなかったら、30になる前に死んでいたよ]
「えっ……」
死んでた!?
びっくりして固まっていると、宇迦之御魂神様はさらに言った。
[今、お前は27歳か。体のままならなさに苦しんでいても、思いもよらなかっただろう、自分が死ぬとは]
「え、私そんなに早死にするんですか……?」
[霊薬を飲み続ければ、少なくとも人並みの寿命は確保できる。病気にかかる確率も少しずつ減らせるだろう。体力については、そういうところが充足してからだよ]
「そ、そうなんですか……」
え、私、何もなかったら、あと2年くらいで死んでたんだ……え、全然思いつきもしなかった、たしかにずっと体悪かったけど……。
天照大御神様が、サブレをかじってから庭を見た。
[よい庭だな。よく手入れされている。手入れは、館に住まう者がしているそうだな]
「はい、館の主……持ち主っていうか、館にずっと染み込んでるという意味での館の主がやっています、お館様ですね」
[人の姿ではないそうだな、そやつは]
「確かに透明なスライムですけども……何くれとなく助けてくれるので、私はとても信頼しています」
[そうか]
天照大御神様は、優しい顔になった。
[そやつを受け入れたからこそ、薬師如来殿はお主を選んだのだろうな]
「え? そうなんですか?」
[姿形にこだわらず、相手の人となりで判断するというのは、美徳だよ]
「そ、そうですか?」
なんかほめられてるのかな?
天照大御神様は言った。
[館の主は、我々とは異なる理で生きているが、これからも仲良くやるとよい。仲良くやれそうな人間だから、我々はお主の顔を見に来たのだ]
天照大御神様は、宇迦之御魂神様と九さんに視線をやり、少し強めの声で言った。
[宇迦之、九。これからもこの娘を見ておけ]
[承知いたしました、伯母様]
「謹んでお受けいたします、天照大御神様」
天照大御神様は立ち上がった。
[では、そろそろお暇しよう。牧之原、茶と菓子を心を込めて選んでくれて礼を言う]
「いえ、私一人じゃなくて、皆でやったことですから」
[そうかそうか、お主はそういうところがよいところだな]
天照大御神様は目を細め、雲がさっと日差しを遮り、すると天照大御神様も宇迦之御魂神様も消えた。
九さんが安堵のため息をついた。
「冷や汗をかいたぞ……お主をよく見ておくことの方が大事でいらしたのじゃな」
「そうみたいですね……」
「しかし、無事に終わった。よかった」
薄荷ちゃんと矢車ちゃんがホッとした顔でやってきて、お皿を下げ始めた。私は2人に声をかけた。
「おいしいのありがとね」
「あ、お茶もコーヒーも淹れたのみんなヤカ様ですよ! 私たち運んだだけです」
「え、そうなんだ!」
「私たち緊張しすぎてうまく淹れられなくて、そしたらヤカ様が変わってくださって」
「そうだったんだ!」
やっぱりきつかったよねえ、2人とも。
館に戻ると、ヤカが厨房で後片付けをしてくれていた。
「ありがとうねヤカ! 裏でやってくれてたんでしょ?」
{一応。品評会は私が淹れたものでやったので、同じ者がやったほうがいいかと思って}
「本当にそうね、ちゃんと打ち合わせしとけばよかったね」
{無事に終わったのなら、それでいい}
九さんもヤカに声をかけた。
「すまぬのう、矢車と薄荷にはちと荷が重すぎた」
そんなことを話していると、薄荷ちゃんが気遣わしげな目で私を見た。
「真希様、お疲れじゃありませんか? すぐお熱出すのに」
「あー、そうね……」
実は、終わったら緊張が解けて、だいぶぐったりしてきている。九さんが驚いた目をした。
「おお、そうじゃったそうじゃった。疲れたじゃろう牧之原、休むといい」
ヤカも頼もしく言ってくれた。
{後のことは私たちに任せてほしい}
「そう? じゃあ、失礼して、ちょっと部屋に戻るわ……」
部屋に戻ったら本格的に気が抜けてしまい、私はふらふらとベッドに倒れ込んだ。こんなに緊張して疲れたの久しぶり、今日はもうダメだわ……。
コメント
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ああ、天照大御神様ご本人とのお茶会!緊張がひしひしと伝わってきました。私が特に惹かれたのは「もしもの視点」で見た真希さんの未来――霊薬がなければ30歳前に死んでいたという話。伏線がこう繋がるのか、とゾクゾクしました。それに「姿形にこだわらず相手の本質を見る」という天照大御神様の言葉も、ヤカへの信頼と響き合ってじんわりきました。お疲れ様、真希さん!