ずっと幸せだった。
幸せだったはずなのにその幸せは一瞬で崩れてしまった。
『お母さん、お姉ちゃん、行ってきます』
「えぇ、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい〜!」
2人とも、笑顔で俺を見送ってくれる。
俺も、笑顔で家を出る。
なぜなら今日は彼氏とのデートだから。
でもお姉ちゃん達はそのことを知らない。
伝えてないから。
何故かと言うと。
俺は15歳で彼は24歳だから。
年の差くらい…って思うかもしれないけど、それでも、身内に話すのは少し気が引けた。
『……え?お互い家族に関係を話す…?』
「ああ、ほら、俺24だろ?親から結婚はまだかってうるさくて…。相手がいるって教えてやったら少しはマシになる気がしてさ…。もちろん、結花が嫌なら構わない。」
『……ううん、大丈夫。言おっか』
少し、迷いはあったが彼氏の友稀のために承諾した。
この後どうなるとも知らずに──
『お母さん、話があるの』
その日の夜、俺はお母さんに付き合ってることを伝えようとした。
「あら結花、どうしたのかしら?」
『俺ね、付き合ってる人がいるの。』
「…それって、男女の関係でってことかしら?」
『うん』
「…まあ、結花も15だものね。そういう相手くらいいてもおかしくないわよね…。ところで、どんな人なの?同じクラスとかなのかしら?」
『いや、そうじゃなくて…。付き合ってる人、社会人で、9つ上なの』
「……え?……今お母さん、聞き間違いしたみたい…もう一度言ってくれる?」
『彼氏、社会人で、24歳。私の9つ上』
「……本気で言ってるの?」
『本気だよ』
「弄ばれてない?」
『お互い、本気だから』
「……」
そのままお母さんの反応を見てたら…
「……いわ」
『え?』
「許さないわ。その交際は」
『…え?なんで…?』
「9つ上とか頭おかしいんじゃないかしら。一回り近く違うのよ?それにあなたは学生なの。汚らわしい大人と付き合うなんてどうかしてるんじゃないかしら」
『ちょ……汚らわしいって……』
「だってそうじゃない。どこの誰と今まで付き合ってきたのかわからないのよ?そんなのじゃあなたまで汚れてしまうわ」
『友稀はそんな人じゃ…!』
「いい?男ってのは本性どんなものかわからないのよ。今はいい顔してるのかもしれないけどそのうち裏の顔見せるわよ。とりあえず、今すぐにでも別れなさい。」
『っ……』
認めて貰えないなんて思わなかった。
それでも、別れる気なんてなかった。
そして次の週、またデートの日がやってきた。
『行ってきます』
「あなた、まさかまだ別れてないの?」
『……』
『違うよ。もうあの人とは別れたから。今日は友達と一緒に遊んでくるの。』
「……」
「そう。それならいいわ。楽しんでらっしゃい」
『うん、行ってきます』
バタン
『……っ』
嘘を吐いてしまった。
でも、そのくらい私は友稀と一緒にいたかった。
そして俺は待ち合わせ場所へ向かった。
「あ、結花。待ってた。」
『友稀。待たせてごめんね』
「大丈夫。ところで、ご家族に話せた?」
『っ……!う、うん。話せたし、認めて貰えたよ。』
「そっか。よかった。俺の方も、認めてくれたよ」
『よ、よかった…』
すごくモヤモヤした。お母さんにだけじゃなく、友稀にも嘘を吐いてしまった。
そしてそれからしばらく経って、デートから帰ってきた日のこと。
『ただいまー』
「……結花」
『あれ?お母さんどうしたの?』
「今日、どこに行ってたの?」
『え?だから友達と……』
「あの男が友達だと言うの?」
『……!』
どうやら友稀と会っているところを見られたらしい。
『それ、は……』
「まだ別れてなかったみたいね。こんなに私が言ってるのに。まさかもうあなたも汚れてしまったの?」
『っ…だから友稀は汚れてなんか…!』
「汚れた子なんて要らないわ。出ていきなさい。」
『っ……』
言われるがまま家を出た。
そして、友稀に連絡した。
[今から、家行っていい?]
すると、こう返ってきた。
[ごめん、今からは無理]
『……』
[だよね、ごめんね急に。]
こう送信すると俺は泣きながら走った。
涙で前が見えなくなりながら。
走って走って走り続けた。
すると──
キキィー!!
視界が白くなった直後暗くなった。
『…んん…ここは…』
「お、起きたか」
『えっ、ちょっ…?!』
私は目の前にいた男性2人に驚いて後ずさりした。
「わ……驚かせちゃったみたい…」
「名乗った方が安心できるかな。俺は星川悠希。」
「俺は冬本澪だよ〜」
「名前、言えるか?」
『ふ、吹闇結花…』
「結花ちゃん!よろしくね!」
澪と名乗った男性が言った。
「おー!その子起きたみたいだね!」
すると元気な女性の声が聞こえた。
『え、えと…』
「おい、名乗れ」
悠希が女性に言う。
「えっとねー、私は月影未彩!よろしくね〜!」
『ふ、吹闇結花です…』
「ところで結花、何があったか話せるか?」
『…実は──』
俺は全て話した。
大好きな彼氏と付き合ってて、家族にそのことを伝えようとしたら母親から反対されたこと、そしてそのことを彼氏に伝えられなかったこと、そして別れていないのがバレて家を追い出されたこと……
「なるほど。」
「でも彼氏と離れちゃったんだよね…それちょっと辛いかも…」
「でももしかしたら待ってたらその彼氏くんもこっち来たりして!」
「能天気すぎだ」
「何はともあれ、吹闇結花さん、貴女を麗流楼水に歓迎します!」
次の日、結花に連絡を入れた。
[昨日はごめん。]7:30
[怒ってる?]12:34
[頼む、既読だけでもつけてくれ…]18:42
[結花]19:12
[大丈夫?]20:17
[何かあるなら話して欲しい]21:03
[結花…?]22:58
一日、連絡を入れたけど一切既読がつかない。
すると、こんなニュースが流れた。
「えー、再び楼鏡市内で行方不明者が増え、現在750人以上にも──」
『……』
『まさか、結花……』