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私は、昔から「ふわふわ」という言葉が好きだった。
理由は特にない。
ただその響きが好きだっただけだ。
でも、もし理由をつけろと言うならば…
それは過去が関わっているかもしれない。
「ほら稔音。高いたかーい。ふわふわだぞ〜!」
『きゃー!ふわふわ〜!』
「ふふ。稔音もお父さんも楽しそうね。」
小さい頃、私は父に高い高いをして遊んでもらっていた。
その時に父が「ふわふわ」と言っていたのだ。
きっとこれが、私が「ふわふわ」を好きな理由なのかもしれない。
それから私は、なんでもふわふわと言うようになった。
『お父さん!あれなぁに?』
「あれはパフェだぞ〜。食べたいか〜?」
『うん!ふわふわしてそう!食べたーい!』
「ふっふっふ、ならば買ってやろう〜」
『わーい!ふわふわ〜!』
「ふわふわ〜」
父は、私がふわふわというと喜んでふわふわと返してくれた。
でも数年後。
「うっ…お父さん…おとうさぁん……」
『……』
父は亡くなってしまった。
交通事故だった。
それから私は母との二人暮しになった。
そんなある日──
バシンッ
『……?』
「あんた…ふわふわ ふわふわって……うるさいのよ!!」
私は、父から教わった大好きな言葉を大切にしたくて、ずっとふわふわと言い続けていた。
だが、それが母の気に食わなかったらしい。
私は殴られたのだ。
「あなたがふわふわって言う度に私は苦しくなるのよ…!」
「あの人が亡くなった悲しみ。ご近所からの奇異の目。あんたがまだ小さい頃にふわふわって言うのをやめさせればって…」
「そんな風に苦しくなるのよ!」
「あんたなんかいなければ良かったのに!!」
『っ……』
その言葉を聞いて、私の中で何かが切れた。
気づけば、母の頭部はぐちゃぐちゃになり、辺りは血塗れになっていた。
『っ……!』
その光景を見た瞬間、私は…
「おーい…おーい…。あれぇ?反応無いなぁ」
「寝てるだけだろ。もうしばらく待て」
「でもそうすると私の仕事が…」
声が聞こえて私は体を起こした。
「わっ!」
「なんでお前が驚くんだよ」
『……ここは?』
「ここは麗流楼水。居場所をなくした人が来る町だよ。私は月影未彩。あなたは?」
『私は…不乱稔音』
「稔音か…俺は星川悠希」
「稔音ちゃん、何があったか話せる?」
『……あのね』
私は話した。
亡くなった父に昔から言われていた「ふわふわ」という言葉を言い続けていたら母に激怒され、気付いたら母を殺していたこと。
「なるほどぉ…」
「まあ、人を殺してここに来たヤツなんて他にもいる。」
「そうだね!不乱稔音さん!あなたを麗流楼水に歓迎します…!!」
それから数日後。
『…ここで、上手くやって行けるかな』
すると、1羽のインコが飛んできた。
「フワフワー!ネネ、フワフワー!」
『……!』
見覚えのないインコだった。
でも、確かにそのインコは私の名前と、私の大好きな言葉を言ったのだ。
『お父さん…?』
「フワフワー!タカイタカーイ!フワフワー!」
『っ……』
私は静かに泣いた。
インコの発言は、お父さんの発言そのものだったから。
『お父さん…会いたかったよぉ…』
「フワフワー!」
「……ネネ、ゴメンネ。ダイスキ」