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今のホール店員の制服は、男の子も女の子も黒のロングエプロンと白シャツのギャルソンスタイルなんだけれど…。

新作は黒のワンピースでシンプルに見えるんだけれど、タックが入った半そではパフスリーブになっていて、胸元の大きな白リボンにお店の名前が刺しゅうされているところとか、白エプロンに甘すぎない綺麗なレースがついているところとか…ところどころに可愛らしさがあしらわれている。

「わぁ…すっごい素敵ですね…」

「ふぅむ、なかなかいいセンスしてるな。コテ甘過ぎないところが安っぽくないと言うか…祥子さんらしいなぁ」

ふむふむ、とお洒落な暁さんも感心するくらいに、本当に素敵な制服だ。

「今日はこれを着て出るといいよ」

「ええ!?わ、わたしこんな素敵なの、似合わないですっ…!」

「いやいやいや、絶対似合うって。だって、そもそも日菜ちゃんをイメージしてデザインされたものだと思うし。落ち着いてるけど、甘さと可愛さを無くしていないところが、日菜ちゃんにぴったりだ」

「そ、そんな…!わたし、そんな可愛いのをいただけるほどお仕事できないですし…トロいしドジだし」

「うーんそんなこと言っちゃダメだなぁ。日菜ちゃんはトロいんじゃなく、おっとりしていてゆっくりなだけ。ドジなのはアルバイトが初めてですべてに不慣れなんだから気にすることじゃない」

ふふ、と暁さんはやわらかく笑った。

「そういうことって、全部晴友が言うんでしょ?まったく、あいつだって人のこと言えた立場じゃないのになぁ。あいつだって最初は祥子さんにこっぴどく叱られて鍛えられながら今みたいになったんだからな」

「…そう、なんですか?」

「そうそう。ちなみに俺もね。だからいまだに祥子さんには頭が上がらないんだけど…」

と、照れるような笑いを浮かべる暁さん。

『だから日菜ちゃんも負けちゃだめだよ』

らしくないその微笑には、そんな励ましの気持ちも込められているような気がした。

そうか…そうだよね。

きっとみんな初めてのころは失敗ばかりで落ち込んだりもしたけど、一生懸命がんばってできるようになったんだよね。

わたしもがんばらなくちゃ…ね。そうしたら…すこしは晴友くんも見直してくれるかもしれない…。

わたしのこと、嫌わないでくれるかもしれない…。

「ありがとうございます、暁さん。わたし、やってみますね」

ぎこちないけど、精一杯の笑顔をつくると、暁さんはぽん、と頭を撫でてくれた。

「うん、可愛い笑顔が戻った。よし、早速練習始めようか。今は客も少ないから、仕事の片手間に付き合ってあげられるし」

「わぁ…ありがとうございます…!暁さんが手伝ってくれるならとっても心強いです」

「じゃあまずは、これに着替えてこようか」

「え?もうですか?」

「そうそう。本番さながらの状況で臨むためにも、ね」

ウインクを投げられ、わたしは押し切られるように制服と一緒に更衣室に押し込まれた。

暁さんがそういうなら従おう…。

そう思って、着替えてみたんだけど…。

鏡に映った自分にびっくり。

制服は、着てみると想像していた以上に素敵で…特に胸元の大きな白リボンがお花みたいで、もうすごく可愛い…。

スカートとエプロンも肌ざわりがすごくよくて、動くたびにふわりと広がるのがお姫さまみたいな気分にさせてくれる。…ちょっと短めなのがドキドキだけど…。

もう『可愛い』しか浮かばない。

うう、こんな制服着て働けるなんて、すっごくすっごくうれしいよぉ。

ああでも、可愛すぎて逆に恥ずかしい…。

美南ちゃんなら堂々としていいと思うんだけど、わたしみたいな半人前じゃなぁ…。

というか、これから暁さんに見てもらうのさえすごい緊張する…。

「日菜ちゃん、日菜ちゃーん」

トントントンと音がして、暁さんが声をかけてきた。

「着替えた?日菜ちゃん」

「あ、はい…でも、もうちょ…」

「じゃあもういい?早く出てきてほしいなー!」

「え…あの…」

「早く…早く…!もう来ちゃうから…!」

来ちゃう?誰が…?

暁さんがひっきりなしにノックするので、緊張を沈める余裕もない。

うう、わかりました…っ。

もうどうとでもなれっ!

と、目をつぶりながら思い切って出てみた。

けれど、しん、としていて、反応はゼロ…。

暁さんの声すら聞こえてこない。

…やっぱり、わたしには似合わなかったかな…。

と、うっすら目をあけたとたん、わたしは硬直してしまった。

「ほらな、言いもん見れただろ、晴友」

って、勝ち誇ったように言う暁さんと、

晴友くんがいたから…!

うそ…!!

晴友くんが来てたなんて全然気づかなかった…!

そうか…暁さんが連れてきたんだ…。

どうして…??ひどいよぉ…!

「祥子さんデザインの女子の新作制服。どうだよ、ヤバいだろ?」

「……」

「これでテレビ出たら、放送後の反響が恐ろしいことになるかもなー。こりゃ、男好みのメニューも考えとかなきゃなー。でも、おまえが出ろって言うんだから、仕方ないよなぁ」

晴友くんは、無表情でわたしを見下ろしていた。

けど、だんだんと…表情が…険しくなって…。

「別に。だからなんだよ。くっだらね」

怒ったように視線をそらした。

「こいつが何着たってどうなろうが、ドジでトロいのは変わんねぇだろ」

晴友くんの言葉は、わたしの胸を突き刺した。鋭く深く、深く。

「晴友。おまえってやつは…」

暁さんの声が固くなって、最後はあきれたようにため息まじりになった。

晴友くんの表情がすこし崩れた。

「は。わざわざ手助けなんてして、もしかして暁兄こいつのこと狙ってんの?」

「ないよ。俺は年上好きだからね。そんな不安に思わなくても大丈夫だからなー晴友」

余裕たっぷりの暁さんの切り返しに、晴友くんはますます眉間にしわをよせた。

「…なら、せいぜいがんばれよ。テレビの前でもドジやらないでちゃんとやれたら認めてやるよ。もうすこしやさしくしてやる」

言い捨てるように一気に言うと、晴友くんは休憩室を出て行ってしまった。

暁さんは大きくため息をついた。

「まったく、あそこまで強情だとは思わなかったな。誰に似たんだか…ってごめんな、日菜ちゃん。余計なことしてしまったな」

「いいんです。晴友くんの言う通りだと思うし…」

心の底から申し訳なさそうに謝ってくれたけれど、暁さんが悪いことなんて全然ない。

わたしは涙をこらえながら、暁さんに笑顔を向けた。

「つまりは『がんばれよ』ってことですもんね。指導係からの厳しい叱咤なんです。だから、言いつけどおり一生懸命がんばります」

「日菜ちゃん…」

ぽんぽんとわたしの頭を撫でて、暁さんは微笑んでくれた。

「よし、じゃあ今から宣伝練習をしよう」

「え、キッチンは…?」

「もういいやそんなの。マンツーマンだ。晴友に全部やらせとけ。ディナーまで時間がある。今時間の軽食ならあいつも作れるから」

そうして、練習が始まった。

取材は一時間後だった。

イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で

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