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「俺様、家に友人上げるの初めて! あずみん、あずみん、ありがとな」
「い、いや……感謝するのは間違っているような気がするが」
次の日、約束のことで頭がいっぱいになっていた俺はいつも以上に授業に集中できず、宿題を増やされた挙げ句、部活にも参加しろと言われ渋々参加した後空澄に連れられ、空澄の家に来た。が、空澄の家は俺の知っている家ではなく、もはや絵本に出てくる城のようだった。外装から煌びやかで敷地面積がどれぐらいあるんだと言うほど広く、そして中も煌びやかだった。さすがは日本トップの財閥の御曹司である。
都心近くにこんな大きな家を建てられる時点で薄々そうじゃないかとは思ったが、実際に目にしてみるとその凄さがわかる。俺の家がボロアパートということもあって、その差は歴然といった感じだった。自分がちっぽけな存在に見える。
そんなこんなで、豪華な部屋に入り、長い廊下を抜け空澄の部屋に案内される。自分の部屋と言って紹介されたそこは、もはや部屋と言うより一つの空間といった方が正しかった。ロフトと言われるものもあり、ソファもガラス製の円机やよく分からない置物、天蓋付きのベッドと、中学生の部屋ではなかった。俺の家なんて、茶の間と寝室がくっついているような、ほぼワンルームにちかいアパートなのに。
そうして、空澄に適当に座ってくれと言われ、恐る恐るソファに座る。そのソファもフカフカしていて座り心地が良く、座ると吸い込まれるように沈んだ。
目の前には見たことの無いキラキラと輝く豪勢なお菓子が並んでおり、それを目の前にしただけで腹の音が鳴った。
「これ、何だ……?」
「うん? ああ、それ、カヌレとか言うフランスの焼き菓子らしいぞ。フランスの焼き菓子職人を呼んで作らせたものだから、美味しいと思うぞ!」
「ふ、ふー……んって、はあ!? 職人を呼んで作らせた!?」
と、思わず立ち上がり大声を出してしまった。しかし、これは驚かずにはいられないだろう。だって、普通なら買うものであって、わざわざ呼ぶものではないはずだ。それが当たり前のはずで、俺の常識が間違っていなければの話だが。
だが、空澄の常識は違うようで、何か可笑しいこと言ったか? みたいな顔で俺を見ていた。
こいつの常識はかなりズレている。苦労していないんだろうな……と羨ましく思うと同時に、確かにこれだと友人も出来ない気がした。
俺は、ソファに座りながら紅茶を淹れて貰ってくると言って立ち上がって何処かに行ってしまった空澄を目で追った。
「……はあ」
気疲れで思わず溜息が出てしまう。
本当に空澄の友人になったのだと、まだ自覚はないがこんな違う世界を見せられたら、自分が如何に惨めで汚い生活をしているかと言うことが分かってしまう。そんな俺を、丁寧に空澄は扱ってくれて、全く友人とは何なのかと問いただしたくなる。
分からない、俺も空澄もきっと何も分からないから、こうやって距離をつめていくしかないのだろうと。これから知っていけばいいし、俺達なりの関係を築いていければそれでいい気がした。
「あっずみん! 紅茶飲めるか!? 砂糖幾つ入れる?」
「……入れなくて良い、甘いものそこまで好きじゃない」
「そ、そんな……じゃ、じゃあ、そのお菓子食べられない……のか」
ガラスのトレーに紅茶を乗せて帰ってきた空澄は、俺の一言でショックを受けたようにそのトレーをひっくり返しそうになった為、俺は立ち上がり空澄の手を支えた。本当に目を離したら危ない、とこいつについていてあげなければならないと思わせられた。あまりにも、悲しそうなかおをするため
「……あ、ああ、いや、食べれる。空澄がせっかく出してくれたものだし」
「ほ、本当か!? ならいっぱい食べてくれ、一杯あるからお土産に持って帰ってもいいぞ!」
と、凄い手のひら返しというか、コロッと表情を変えて空澄は俺に詰め寄る。その弾みに紅茶が服に飛んでシミを作った。まだ、黒い学ランだったのが救いだったが。
「凄ぇ、臭う」
「あずみんって、鼻いいんだな。確かに茶葉開けたとき良い匂いはした気がしたけど……あずみんって犬みたいだな」
「俺のこと矢っ張り、動物か何かと思ってるだろ」
「番犬」
「失礼にもほどがありすぎる」
ごめんって。と危ないので取り敢えずトレーを置かせた後、空澄はポケットに入っていたハンカチを取り出して、濡れたところを拭き始めた。そんな大げさな、と怒っているのはそれじゃないと思わず手が出そうになったが寸前の所で手を引っ込めた。友人に手を出すなんて出来ない。と本能が俺を引き止める。
それから、空澄は落ち着いて……といっても、こいつはこいつで小動物みたいにそわそわ落ち着かない雰囲気をかもし出しながらも、菓子を食って他愛もない話をした。
大半は、明日のテストについてだ。
「ぐぬぬ……赤点取ったら、課題出るって、あずみん、勉強教えてくれ!」
「俺も、勉強できねえんだよ……それも苦手な英語」
二人で顔をつきあわせて、低く唸る。
どうやら俺の予想通り、空澄も勉強が出来ない人間らしく、俺を頼りにしていたようだが、俺は空澄よりも勉強が出来なかった。何か突出しているものがあるわけでもなく、言い点数が取れたと下手四〇が最高か……
(国語だったら、まだどうにかなったかもだが)
そんなことを思いつつ、あれやこれやと対策を立て、教科書を開いたが、やる気が出ずその後も空澄のペースに乗せられて帰る直前まで勉強をする事なく話し続けた。
そして、次の日結局俺達は赤点をとり、信じられないぐらいの量の課題を渡され、また二人で空澄の家にいき勉強会をすることとなった。
そんな日々が二年と続き、俺達の中で最大何巻である高校受験に見事合格し、中学校を卒業できた。今でも、受験合格が夢のようで、実感がない。それと、二年という間、俺は空澄囮という人間と一緒にいた、いれたのかと、それもまた実感がないことだった。