この作品はいかがでしたか?
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─────10年前。
「ユリノ、着いたよ」
男の子は優しく、髪の長いウマ娘を床に下ろした。
髪は三つ編みをしても、少女の身長を数十センチ越していた。左耳には耳あてがしてある。
髪の色は、純白で。
目の色は、深い深い藍色。
目の中に光はなかった。
「………う…?」
少女は言葉を発する事がまだ難しいらしく、赤子のような声をあげた。
少女は他の同年代の少女と比べると身長はかなり低い。低身長症なのか、充分な食事を取れてなかったか。
「………ユリノ、今日から俺らはここで暮らすの。少しボロボロの家だけど、大家さんも家賃は払わなくていいって言ってたし、しばらくここで暮らそうね」
「……………わか、た」
少女は慣れない喋り口でそういうと、部屋をペタペタと走っていた。
「ごめんね。いきなりこんなとこ連れてきて」
「だいじょぶ」
少年は荷物を下ろし、お世辞にも綺麗とは言えない床に座り込んだ。
少女も真似をしてぎこちないながらも座る。
「……無理しちゃダメだからね。いつでもお兄ちゃんを頼ってくれてもいいから」
「うん」
『お兄ちゃん』と名乗る少年は過保護なようで、少女の脚を心配しているようだ。
か細い、脆く儚い脚を。
「小学校行きたい?」
少年は聞いた。
「………ううん」
少女は首を横に振った。
少し黙りこんで。
(……せめて小学校くらい行かせたいんだけど…お金もないしな。字もまだ読めないだろうし)
少年は悩んだ。
少年はまだ13。働ける年齢でも、誰かを養える年齢でもない。所持金もお年玉の3万円のみ。
「……………」
「お兄ちゃ…」
「…─なぁに」
少年は、少女に呼ばれると笑顔で返した。
少女は、少年に向かって歩いていく。
“お兄ちゃん”にギュッと抱きついて言った。
「……ぼくは他の子とちがうの…?」
「…え?」
「み…んな、ぼくみたいにあたまの上に耳がないって、しっぽもないって……」
少年は少し黙って、両手で少女を優しく包んだ。
「ユリノはね、ウマ娘っていってね、他の子より足が速かったりするの」
「そうなの」
「ウマ娘に生まれたことは恥ずかしいことなんかじゃない。むしろ誇るべきこと」
優しい口調で少年は言った。
「ウマ娘はみんな特別な名前を持ってるの。だから、俺もユリノの名前に沢山の思いを込めた。………誇っていいんだよ」
「……う…」
「………………今までよく耐えてきたね」
「…………うぅ」
少女は泣き出した。
…………。
…………………。
……。 …………。
「…………ユリノ」
「…コール」
2人は顔を合わせた。
地下バ道のレース場から1.4キロのところ。
日本ダービーのあとで。
私はコールドブラデッドのトレーナー。
「………」
気まづいのか、二人とも黙っている。
数分してユリノテイオーが話し始めた。
「…コール、体調が悪いの?」
その質問にコールは黙っている。
「ねぇ、何か言ってよ……お願いだからさぁ…」
ユリノテイオーは泣きそうに泣きながら言った。
コールも耐えきれなくなったのか、話し始めた。
「……ううん」
「…………じゃあ……」
…………あぁ、こりゃ。
「じゃあ、なんでダービーに出なかったの…!僕は楽しみにしてた。コールと一緒に、またコールと一緒に走りたかった…!」
「……」
喧嘩長引くやつだ。
「……ねぇなんで!教えてよ!なんでダービーに出なかったの!?」
普段からは全く想像できない声でユリノは言った。
「………アタシは……」
「ダービーでコールと走りたかった。僕は楽しみにしてた!僕は、僕は────…………っ」
頬から大粒の涙がこぼれた。
その声が地下バ道に響いた。
「…………っ……ふぅっ…」
コールはユリノが立ち去って少したってから、静かに涙を流した。
私は壁に寄りかかってそれを眺めてるだけ。
「………コール」
小さく呼んでも振り向きはしない。
誰よりもコールのことを思っているのに。
「……………トレ、ナー」
「何」
そう、愛想のない声で答えた。
「アタシ、毎日王冠勝って……天皇賞秋勝つから………勝って……勝ってユリノの親友に…ライバルになれる存在になりたい…」
「……それで?」
またまた無愛想な声で答えた。
…最低だな。
「………だから、だから勝つよ……天皇賞秋…誰よりも速く、レコードで………!」
泣きながら強く決心したコールを見た。
私はゆっくりと歩み寄って言った。
「………よく言った」
私は私より少し背の高い彼女を、
ただただ優しく抱きしめてあげることしかできない。
コメント
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そういえばユリノテイオーちゃんって元ネタあるんですか?
感動です😭
モデルは2011年日本ダービー。 コールは出てればバリアシオンポジかオルフェポジに居たはず。