テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#サイコホラー
れい
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
重い扉が閉まる。
円卓の上に地図が広げられていた。
グラディウス周辺の地形、路地、廃屋、地下道――細かく書き込まれている。
室内は静まり返っていた。
「現状を整理する」
カイルが口を開く。
指先が地図の一点を叩く。
「敵はこの周辺に分散している可能性が高い」
「だが――」
リシアが言葉を継ぐ。
「統率が取れている以上、必ず“中枢”がある」
ユナが軽く手を上げる。
「はい!それ、今私が探ってるよ」
机の端に置かれた小型の通信魔具。
淡い光が明滅している。
「隊のみんなが今、裏路地から地下に潜ってるはず」
セラが小さく息を吐く。
「無理はさせていないでしょうね」
「大丈夫大丈夫」
ユナは軽く笑う。
「うちの子たち、優秀だから」
アルドは壁にもたれ、腕を組んでいる。
視線だけが静かに魔具へ向けられていた。
カイルが口を開きかけた、その時。
ピッ――
短い音。
魔具の光が一瞬、強く弾ける。
「……来た」
ユナが身を乗り出す。
光が揺れる。
音声が走る。
『……こちら、五番――』
ノイズ。
ザザッ――
「感度が悪いな」
リシアが眉を寄せる。
『……地下……反応、多数……』
声はかすれている。
だが緊張が滲んでいた。
『……拠点……恐らく――』
ブツッ。
沈黙。
「5番隊!?」
ユナの声が低くなる。
魔具の光が、不規則に明滅する。
ザ……ザザッ……
『――……』
何かが擦れる音。
息。
誰かの荒い呼吸。
『……待て……これは……』
一瞬。
空気が凍る。
『――人じゃな――』
途切れる。
完全な沈黙。
光が、消えた。
「どうしたの!?、ねぇみんな!?」
ユナの声が、わずかに震える。
リシアが即座に魔具へ手を伸ばす。
「再接続――」
反応なし。
カイルの視線が鋭くなる。
「位置は」
「……最後の発信は、南西区画の地下水路」
ユナの声が変わっている。
軽さが消えていた。
ドランが静かに立ち上がる。
「行くか」
ガルドは既に剣を肩に担いでいた。
「決まりだろ」
その時。
アルドが、ぽつりと呟く。
「……遅いな」
全員の視線が一瞬、彼に向く。
アルドは魔具を見ていた。
その目だけが、わずかに細められる。
「“見つかった”んじゃない」
静かな声。
「“待たれてた”な」
空気が一段、重くなる。
カイルが短く息を吐く。
「出るぞ」
全員が動き出す。
椅子が引かれ、足音が重なる。
扉が開かれる。
その直前――
ユナが一瞬だけ振り返る。
魔具。
沈黙したままのそれ。
「……絶対、生きてる。無事でいて」
誰に言うでもなく、呟く。
扉が閉まる。
部屋に、静寂が落ちた。
――その頃。
湿った地下水路。
水滴が、ぽたり、ぽたりと落ちる。
薄暗い通路。
そこに――
転がっている。
五番隊の隊員たち。
壁に叩きつけられた跡。
床に広がる血。
だが。
“全員、まだ息がある”。
殺されてはいない。
ただ、徹底的に“潰されている”。
足音。
コツ……コツ……
ゆっくりと近づく影。
倒れた隊員の一人の前で、止まる。
しゃがむ。
顔を覗き込む。
「……惜しいねぇ」
軽い声。
だが、温度がない。
指先で、隊員の顎を持ち上げる。
「あと一歩だったのに」
その男は、笑っていた。
楽しむように。
観察するように。
紫の瞳が、わずかに細められる。
「でも――」
すっと立ち上がる。
背を向ける。
「ここまで来れたのは、褒めてあげるよ」
歩き出す。
影が伸びる。
その名を、誰も呼ばない。
だが――
誰よりも、この場に相応しい存在。
ロビンフット。
闇の中で、口元だけが歪む。
「さて」
足音が遠ざかる。
「“客”が来るね」
完全な静寂。
水音だけが、残る。
――狩りが、始まる。