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第十四章 月が導く先
第四話 その時が来るまで
カチ――
鍵は驚くほどぴたりとはまった。
「……!」
全員が息を呑む。
長い間、失われていたもの。
離れていたもの。
それが今、目の前で繋がった。
ハヤトがゆっくり鍵を回す。
だが
「あれ……?」
小さく首を傾げる。
左右へ少し動かしてみる。
一度抜き、向きを確かめ、もう一度差し込む。
しかし開かない。
静かな沈黙が落ちる。
張り詰めていた空気が、少しずつ緩んでいった。
「……駄目か」
ダイチが肩の力を抜く。
ジュウタロウは箱を見つめたまま、静かに口を開いた。
「封印……かもしれないな」
「鍵が合うだけでは開かない仕組みなのかもしれない」
「何か特別な条件があるのかもな」
「条件……」
ハヤトは小さく呟く。
そして、箱へ刻まれた月の紋章へ視線を落とした。
「……ジント」
「え?」
「一度、お前が試してみてくれないか」
ジントは少し驚いたように目を瞬かせる。
けれど、静かに頷いた。
ハヤトから鍵を受け取る。
その瞬間、また不思議な感覚がした。
冷たいはずの金属が暖かい。
どこか遠い場所から呼ばれているような。
そんな感覚。
ジントはそっと鍵穴へ差し込む。
カチ――
やはり、ぴたりとはまった。
部屋の空気が再び静まり返る。
ジントは目を閉じる。
そして。
ゆっくり鍵へ力を込めた。
だが。
やはり動かない。
「…………」
箱からは確かに何かを感じる。
懐かしい。
寂しい。
でも、温かい。
遠い記憶の奥に触れているような感覚。
けれど――
「……今じゃない気がする」
ジントがぽつりと呟いた。
全員がジントを見る。
ジントは箱を見つめたまま続ける。
「多分……」
「その時が来たら、開くと思う」
ハヤトはしばらくジントを見つめていた。
そして小さく微笑む。
「……そうか」
その表情は、不思議と安心したようだった。
無理に開くものではない。
きっとこれは。
必要な時に、必要な人へ届くものなのだ。
重たかった空気が、ゆっくり解けていく。
するとシュンタが勢いよく立ち上がった。
「……じゃあ!」
「とりあえず腹減ったし飯食お!」
「せや!」
ダイチも笑う。
「せっかく買ってきたもんが冷めてまう!」
ジントも小さく笑いながら、パンを机へ並べた。
香ばしい匂いが、部屋いっぱいへ広がる。
「うまっ!」
「これめっちゃええやん!」
「ミルハの料理は本当に美味いな」
自然と笑い声が戻ってくる。
しばらく食事を楽しんだ後。ハヤトがふと思い出したように尋ねた。
「そういえば」
「ジント達は図書館で何か見つかったか?」
ダイチがエビの串焼きを頬張りながら首を振る。
「特にはなかったなぁ」
「“満月の夜に黒い月が〜”とか、前から聞いとる話ばっかりで」
「海から魔物が現れるっていう伝承もあったけど……三百年前の話らしいし」
ジントが静かに付け加える。
ジュウタロウが小さく呟いた。
「……前の月蝕の子の時期か」
その時、シュンタがパンを咥えたままぱっと顔を上げる。
「あ!」
「なんや急に」
「この後、みんなで海行かん!?」
シュンタが目を輝かせる。
「ミルハ来て海見んとか、ありえへんやろ!」
その言葉にジントも顔を上げた。
「……海、行きたいな」
二年前。
ダイチと初めて見た海。
あの時と同じ景色を、今度はみんなで。
「じゃあ食べたら行ってみるか!」
ハヤトが笑う。
「賛成」
「ええやん!」
「久々やなぁ!」
部屋の中へ、再び賑やかな笑い声が広がった。
その傍らで、机の上に置かれた木箱だけが、何百年もの時を越えながら。
静かにその時を待っているようだった。
コメント
4件
comiさんのお話考察が絶えなくてほんと面白いです! 海のシーンみんながわちゃわちゃしてるのが見れるのかなぁと思うととっても楽しみですね☺️💕︎
「その時が来たら」ってことはもう一回あの場所を訪れるってことか! 海シーンも💙💛の展開がなんかありそう・:*+.\(( °ω° ))/.: 次のお話も楽しみにして待ってます♪
みぅです🥀 第4話、読み終わりました。 鍵が合うのに開かない——でも「その時が来たら」ってジントが言ったところ、すごく心に残りました。無理に開けるものじゃなくて、必要な時に必要な人に届くんだっていう考え方が、すごく優しくて。みんなで海に行く話になったときの空気の緩み方も、ほっとしました。 comiさんの描く「待つ」っていうテーマ、じんわり染みます。続きも楽しみにしてますね🌙
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