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   6

 街中の昔からあるアーケード商店街。

 私たちはその片隅にある、ハンバーガーショップに立ち寄った。

 各々テキトーにシェイクやらポテトやらを注文して席に座る。

 ふとお店の外に視線をやれば、例の男子がちらちらとこちらの様子を窺いながら、怪しげに右往左往している姿が見えた。

 本人は気づいていないみたいだけれど、周りの人たちからも奇異の眼で見られているそれは、あまりにも滑稽だった。

 いっそ堂々と入ってくればいいものを、彼はそんなことも思い浮かばないのだろう。

 やがて観念したかのように、遅れてお店の中に入ってくると、ジュースを買って離れたところのおひとり様席に腰を下ろした。

 席と席の隙間からこちらを窺うように、ちらちらと視線を向けてくる。

 ……やれやれ、だ。

 あたしは彼に気付いていないふりをして、スマホに視線を落とした。

 隣では詩織と真凛が向かい合って同じような話をしながら大笑いしている。

 何がそんなに楽しいんだろうか。

 他人のカレシの事とか、ブランド物の服とか鞄の事とか、先生や同じクラスの奴らの容姿を貶して笑いのネタにして――

 私はそんな会話に相槌を打ちながら、話を合わせて笑って見せる。

 けれどその笑いはどうしてもぎこちなくて、不自然で、自分でもそれが解るくらいだった。

 多分、ふたりも私がその手の話があまり好きじゃないことをよく判っていると思う。

 そのことに対して、あまり突っ込んでこないことだけがありがたかった。

 だけど、やっぱり、あたしはこういう話はしたくない。

 ――帰りたい。

 そろそろ、『カレシ』を理由にして抜け出そうか。

 それはあたしの常套手段。

『カレシ』に呼ばれたから先に帰る、という苦し紛れの言い訳。

 今度会わせろ、とは言われるけれど、たぶん、ふたりともそんな『カレシ』なんていないことを、十分承知していると思う。

 深く訊いてこないからこそ、このふたりとはまだ何とかやっていけている、それだけだ。

 あたしはふと視線をあげ、例の男の子に目をやった。

 視線が交わり、一拍置いて彼があたふたと立ち上がるのが見えた。

 その様子がやっぱりどこか滑稽で、それでいて可愛らしくて。

 ……だから、気の迷いが起きてしまったのだろう。

 あたしは立ち上がると、

「――キミ!」

 思わず彼を呼び止めていた。

 逃げられないように、あたしは怒っているのだという顔を演出しながら、

「こっち、こっち!」

 と手招きする。

 彼は少しの間迷っていたが、やがて肩を落とすと、

「え、あ。はい……」

 とあたしの方へ弱々しい足取りで近づいてくる。

 そんな彼に、あたしは、

「――もう! 遅いじゃん!」

「……えっ?」

 ぽかんと口を開け、戸惑う彼。

 誰? というふたりの視線に、あたしは小さく、

「カレシ」

 と口にする。

「へぇ、この子がアヤナのカレシ?」

「意外――でもないか。アヤナ、根が真面目だもんねぇ」

 そのどこかまだ疑っている様子のふたりに、あたしは「ひどいなぁ」と笑顔で答えて、

「ま、そういうワケで今からデートだから、ごめんね!」

「ハイハイ、わかった、わかった」

「んじゃまぁ、また明日学校でねー」

 ひらひらと手を振るふたりに背を向け、あたしは彼の左腕に両手を回して、

「さ、早く行こ!」

「え? あ、はい……?」

 逃げ出すように、あたしたちはその場をあとにした。

 あたしたちはアーケードを離れて大通りを抜け、その先にある小さな公園に駆け込んだ。

 そこであたしは彼の腕から手を離し、

「ごめんね、変なことに使っちゃって」

 と小さく頭を下げる。

 彼は左腕に手を添えながら、戸惑うような表情で、

「彼氏って、どういう意味ですか?」

 と当たり前のようにあたしに訊ねた。

 あたしはなるべく笑顔のままで、

「あぁ、ごめん、気にしないで。あたしさ、彼氏と約束があるからって言って、いつもあの二人を置いて先に帰ってるんだ。だってあの二人、他人の悪口を言い始めたら止まらないから、面倒臭くってさ」

「じゃぁ、彼氏ってのは」

「いないよ?」

 そうあたしは返事して、そして彼に対して釘を刺すように、

「いても面倒臭いだけだし」

 その途端、彼の顔に小さく影が差すのが分かった。

 どこか寂しそうな、悲しそうな、その表情にあたしの心がずきりと痛む。

 だけど、先に言っておかないと後々面倒だ、とあたしは思ったのだ。

「まぁ、そういうワケだから」

 それからあたしは、ニヤリと笑んで、

「それでキミは、なんであたしのあとをつけてたの?」

 これ見よがしに訊いてやった。

 まぁ、理由は訊かなくても解っているけど。

「えぇっ!」

 と驚いたように口にする彼に、あたしは思わず苦笑いしつつ、

「まさか、気づいてないとでも思ったの? 学校を出たところから、ずっとついてきてたでしょ?」

「あ、いや、それは、そんなつもりはなくて」

「なに? ストーカー? この変態!」

 はっきりと口にしてやると、彼は泣き出しそうな表情であたしを見つめてきた。

 イジメているつもりはないのだけれど、その表情を見ていると、何だか妙に心がうずいて仕方がなかった。

 あたしはそんな彼を安心させるように笑いながら、

「……冗談だよ」

 言って、もう一度彼の腕に手を回した。

「え、えぇっ? な、なんですか、いったい!」

 顔を真っ赤にしながら慌てふためく彼の、その表情。

 そのコロコロ変わる表情があまりにも面白くて、おかしくて。

「デートだよ、デート。朝、裏の通用門教えてあげたでしょ? なんかおごってよ」

 もう少しだけ、彼の相手をしてやってもいいかなって、思ってしまった。

「はぁ、わかりました……」

 困ったように頷く彼に、あたしは、

「ホントに? やった! 美味しいケーキ屋さん知ってるんだ。はい、行くよ!」

 彼の腕を引っ張った。

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