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「九條さんが目を覚ましたらナースコールを鳴らして教えてくれ。術後の診察をするからな」
侑は改めて朝岡と看護師たちに深々とお辞儀をした後、ベッドの横に座り瑠衣が目覚めるのを待った。
彼らが退出し、病室のドアが閉まる音を確認した後、侑は瑠衣の頭をそっと撫でる。
「瑠衣。よく…………頑張ったな……」
冷徹と言われている侑の視界が、涙で濡れそうになるのを堪えている。
穏やかな表情で眠っている瑠衣を見て心底安堵したのか、いつしかベッドの横で侑はウトウトして微睡んでいた。
ベッドサイドの心電図モニターのアラート音がけたたましく響く中で、侑は身体をビクっと震わせながら目を覚ますと、鳴り止まない音に瞠目した。
瑠衣の手の甲におずおずと触れると、どことなく冷たい。
その感触に瑠衣がこのまま消えてしまうのではないか、と恐怖が猛烈に襲い掛かり、侑は彼女の名前を呼び掛けた。
「…………瑠衣……? 瑠衣!? 瑠衣!!」
術後の急変なのか、瑠衣は息をしていないように見える。
ただならぬ状況に侑が切羽詰まった状態でベッド周辺を見回し、ナースコールを慌てて鳴らした。
「すみません! すぐに来てください!!」
瑠衣の病室はナースステーションからほど近い事が幸いして、医師の朝岡と看護師がすぐに駆けつけ、処置を開始した。
「…………心拍数が落ちているな……」
心電図モニターを見ながら、朝岡が心臓マッサージを開始すると、固唾を飲んで瑠衣を見守っている侑へ冷静に言葉を紡ぐ。
「響野。九條さんの名を……呼ぶんだ。何度も……呼び続けろ。何度も…………彼女に話し掛けろ」
朝岡も必死で瑠衣に心臓マッサージを施し、侑は蒼白になった愛おしい女の名を口にして繰り返す。
「瑠衣……! 瑠衣…………逝くな!! 瑠衣!! 俺を置いて逝かないでくれ……!! 瑠衣……瑠衣っ!!」
心電図モニターの心拍数が無情にもジワジワと下がり続け、瞳を閉じたままの瑠衣に、侑は胸中で問い掛ける。
(このままお前は…………目を覚さないのか? 俺を置いて……天に召されてしまうのか? だから瑠衣は手術前に、俺に愛してるって言ったのか!? このままお前を旅立たせるわけにはいかない……! 瑠衣にどうしても伝えたい事があるのに、俺には言わせないつもりか!!)
焦燥感を抱えつつ、アラート音が止まない中、彼は人形のような姿態の彼女へ尚も話し掛ける。
「瑠衣! 目を覚ませ……! 退院したら、またラッパのレッスンを再開するんだろ!? なぁ瑠衣……答えてくれ……!!」
侑が必死に瑠衣を呼び掛ける中、波形も曲線から次第に直線へと変化し、一桁まで下がっていた心拍数がゼロになった。
「瑠衣っ!!!!」
心電図モニターのピーっと鳴る音だけが冷淡に響く中、侑は顔を歪めながら瑠衣の名を叫んだ。