「 ねぇ私のこと好きだった ? 」
「 好きだよ 、 俺はずっと羽優が好き 」
デートとして誘われた夜景の穴場スポット
冷え込む12月下旬
クリスマスは互いに受験勉強やら何やらで逢えなかったから 、 という理由で今宵は2人だけの聖なる夜らしい 。
かれこれ十数分 、 彼の事を待っている 。
「 羽優 ! 」
聞き慣れた声に頬は綻ぶ 。
其れとは反して声には怒りを含めた 。
「 寒い中女の子を1人で待たせるって何事ですか ! 」
「 悪かったよ 」
無意識か否か眉を八の字にして謝られる 。
「 許すけど ! 」
怒った声を辞めて君の手を取ろうとする 。
「 羽優 、 あのさ 、 ! 」
何時もより僅か大きな彼の声に肩がびくりと跳ねる 。
「 なんかあった ? 」
「 此れ … 」
暗くてよく見えないなんて都合のいい事も無く彼のほんのり紅く染まった頬が見えた 。
「 御花 、 ? 私に ? 」
差し出されたのは 、 黄一色の花束だった 。
冷気を含んだ風に揺られる私の髪と彼の手にある花々。
「 アレルギーとか無いよね ? 」
「 其れは大丈夫だけど 、 何で御花なんか 、 」
戸惑いを隠し切れていない私の声音に彼は少し淋しげに微笑んだ 。
「 羽優には笑ってて欲しいから 」
返品不可です 、 なんて些か巫山戯た口調で手渡してくる 。
「 ずっと咲いててくれないかな 」
枯れてしまったら淋しくなってしまう 。
だから花を買うのは好きじゃなかった 。
枯れてしまった時 、 心に穴が空く様な気がするから 。
「 枯れたらまたあげるよ 」
白い包装紙が黄色のリボンで結われている結び目を見詰めた 。
「 嬉しい 、 」
自然と笑みが零れていた 。
幸せだった
幸せすぎた
壊れないと思っていた
此の儘続く様に願ってた
「 なぁ羽優 、 別れよ 。 」
聴き取れた筈で 、 聴き返してしまえば自分が崩れる事も分かり切っていた 。
其れなのに
「 … 何て ? 」
現実から逃げたくて聴き返した 。
「 別れて 、 笑 」
同意を求める言い方を辞めて 、 懇願する様な言い方に変わった言葉は酷く私の心を突き刺した 。
眼を見て話す貴方は 、
どうしてか哀しそうだった 。
「 嫌だ 」
どうして ?
何で ?
何が嫌だった ?
何を直せば良い ?
嫌い 、 だったの ?
紡ぐ筈の言葉は全て喉奥に留まって消えていってしまった 。
「 受験勉強で忙しいし 、 大学違うから遠距離になるだろ 」
「 大丈夫だもん 」
夜景の光がボヤけてピントが合わなくなる 。
君にだけは涙なんか見せたく無かった 。
「 俺 、 言ったじゃん 。
羽優には笑ってて欲しいからさ 。 」
私の目元に君は冷えた指先を這わせてそっと拭う 。
君の優しさが痛くて 、 苦しくて 、
傷口を染みさせる 。
「 ねぇ私のこと好きだった ? 」
涙ぐんだ声で問い掛ける 。
「 好きだよ 、 俺はずっと羽優が好き 」
君は狡いよ 。
狡過ぎるよ 。
「 またな 、 羽優 」
何時もと変わらない手の振り方にまた涙が溢れる 。
此れでは新しい恋なんて出来やしない 。
そんな事を考えながら 、
夜景に浮かぶ黄色い花束に涙を落とした 。
コメント
3件
好きなのに別れるって云うのが、杜真くんの優しさが滲み出てる感じがしてもう辛いし悲しいしすっごい好きです 夜景がボヤけてって何事ですか 今まで見てきた泣く描写の中でまじで一番好きです ほんと天才です有難う御座います (
次話 27日 21:00 あくまで予定です頑張ります(