テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
瑠衣が手術を受けるまで、侑は仕事の後に必ず瑠衣の病室に顔を出した。
手術を翌日に控え、彼は緊張気味の彼女の頭を撫でながら言葉を掛ける。
「瑠衣、大丈夫だ。俺が付いているし、朝岡は腕のいい医師だ。必ずお前を助けてくれる。明日は俺も病室で待っているから、安心して手術を受けろ。いいな?」
「うん。ありがとう、先生」
「それよりも…………瑠衣。そろそろ『先生呼び』を止めないか?」
少しでも瑠衣の緊張を解すように、侑があまり見せない穏やかな表情と声音で彼女に言うと、ぎこちない笑みを浮かべながら答えた。
「じゃあ、手術が無事に終わったら…………先生の事、名前で呼ぼうかな……?」
「フッ…………何だそれは」
照れたように薄く笑う侑だが、瑠衣は彼のこの面立ちがとても好きだ。
普段は冷淡な顔つきで鋭い眼光を放つのに、不意に緩む瞬間にキュンとするのだ。
(私が好きな先生の表情を見られたし、何だか励まされたかも……)
二人で他愛もない話をしつつ、瑠衣は侑が面会時間が終了するまで付き添ってくれた事に、彼の大きな愛情を実感した。
瑠衣の手術当日。
侑は朝から病院に行き病室を訪れると、彼女がベッドの上で合掌している。
「瑠衣、おはよう。…………どうしたんだ?」
「私……よく考えてみたら、お腹の子がいなかったら、子宮頸がんだった事を気付かないまま過ごしていたかもって思ってたんだ。だから…………教えてくれてありがとう、私の命と引き換えに……ごめんねって思いながら…………手を合わせてた」
「…………そうか」
神妙な表情で訥々と話す瑠衣に、侑はそっと彼女の髪に触れた。
「…………いよいよだな」
「…………うん」
辿々しく頷いている瑠衣は、やはり不安なのだろう、灰色に濁らせたような表情で侑に視線を絡ませる。
「大丈夫だ。俺はここで待っているから安心しろ」
「うん。そうだね」
瑠衣は力が抜けたように、ふにゃりと笑うと侑を呼んだ。
「響野先生」
「…………何だ?」
「これだけは先生に伝えたくて」
彼女が顔を赤らめながら大きく息を吐き切ると、意を決したように濃茶の瞳が鋭い一重瞼へ真っ直ぐに向ける。
「響野先生…………愛してます」
「…………フッ」
侑が照れ隠しで緩やかな癖のある長い前髪を掻き上げた直後、医師の朝岡がノックして瑠衣の病室に入ってきた。
「九條さん。時間です。行きましょう」
その後、看護師数人がストレッチャーを押しながら入室し、瑠衣はそこへ移動する。
「瑠衣……頑張れ……!」
侑は愛しい女が見えなくなるまで、ずっと見つめていたままだった。
無事に手術を終えて、瑠衣の笑顔を再び見られる事を願って。