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その後、紅葉の恋人である高田健斗(たかだけんと)が挨拶に来た。

健斗は現在35歳。昔格闘技をやっていた健斗はガッチリとした体格の爽やかな男だった。

一樹が楓を連れてカフェに現れたので健斗も驚いていた。どうやら紅葉が言っていた事は事実のようだ。


四人でしばらく談笑した後、一樹と健斗が仕事に関する話を始めたので楓は紅葉と話し始める。

紅葉は楓が明日から働く会社によく出入りをしているので、社内の様子を詳しく教えてくれた。


そして一時間ちょっとの楽しい時間を過ごした二人は、朝食を終え席を立つ。

出口まで見送ってくれた紅葉が楓に言った。



「楓ちゃん、私も時々会社には顔を出すからその時はよろしくね」

「はい。今日はご馳走様でした」



最後に紅葉が楓の事を『ちゃん付け』で呼んでくれたので、楓は嬉しかった。



その後二人は都心にある大型家具店のショールームへ行った。

楓が知っている安価な家具量販店とは違い、高級感溢れる店だ。



「ここならあらゆる種類の家具が揃っているから、楓の好きなものを選ぶといい」



一樹はそう言ったが、楓は傍に置いてあった家具の値札を見てギョッとする。

そこに表示されている金額は楓が見慣れている数字とは明らかに桁が違った。


とりあえず楓は貴重品や書類等を入れられるようなチェストと、窓辺に置く小さなテーブルセットを探す。

選ぶ時は意識してなるべく安価なものを選んだ。

一樹はそれにすぐ気付きこう言った。



「値段は気にしないで本当に気に入ったものを選びなさい」

「でも……勿体ないです」

「いや、妥協して買ったものはすぐに飽きてそれこそ無駄になるよ。だったら本当に気に入ったものを一生大事にする方がずっといい」



一樹のアドバイスはもっともな気がしたので、楓は何度も自問自答しながら本当に気に入った家具を選んだ。



「チェストとテーブルセットがあればもう充分です」

「ドレッサーは? 女にとっては必需品だろう? それと横になって休めるようなソファーがあると便利だぞ?」



一樹は傍に控えていた店員にドレッサー売場への案内を頼んだ。



(折り畳みの鏡があるからドレッサーなんていらないのに……)



そう思いながら楓はしぶしぶ一樹の後をついて行く。

そしていざドレッサー売場に到着すると思わず感嘆の声を上げた。



「素敵!」



そこには女性の憧れがいっぱい詰まったエレガントなドレッサーが所狭しと並んでいた。



(まるでお姫様が使うようなドレッサーもあるわ……)



途端に楓のテンションが上がる。

そんな楓を一樹は笑みながら見ていた。



「この中から気に入ったのを選びなさい」



その時楓は、本当にこんな高価な家具が自分に必要なのだろうかと疑問に思えてくる。



「いえ……やっぱり鏡は持っているので大丈夫です」

「変な遠慮はしなくていい。それに俺の死んだおふくろがよく言ってたぞ。女が鏡を見なくなったらおしまいだってね」

「……お母様が?」

「ああ、だから一つ選びなさい。今までの楓には必要なかったかもしれないが、これからの楓には必要なんだから」



そこまで言われたらこれ以上断るのも悪いような気がした。



「わかりました」



楓は半ば押し切られるような形でドレッサーを選び始めた。

端から一つ一つ見て歩いていると、あるドレッサーの前で足が止まる。



(素敵……)



楓が目を留めたのは、ホワイトウォッシュのフレンチクラシックデザインのドレッサーだった。

脚は曲線のラインが美しい猫脚型でとてもエレガントだ。

これならさっき選んだフレンチスタイルの白いチェストやテーブルセットにもよく合う。



「それが気に入ったのか?」



楓は頷く前に値札を見た。すると予想をはるかに上回る金額が表示されていたのでギョッとする。

そして楓が首を横に振る前に、既に一樹は店員に声をかけていた。



「じゃあこれもお願いします」

「ありがとうございます」

「あとは、最後にソファーだな」



そこで二人は店員と共にソファー売場へ移動した。

楓が気に入ったのはベロア素材の花柄の猫脚ソファーだ。優雅なデザインは白い家具とも合いそうだ。



「これがいいんだな?」



楓はもう値札は見ないまま素直に頷いた。



買物を終え駐車場へ戻る途中、楓は今まで感じた事のない高揚感に包まれていた。



(あの家具が全部揃ったら、まるでお姫様の部屋のようになるわ)



楓の頭には、子供の頃絵本で見たお姫様の部屋が思い浮かぶ。



(ずっと叶わない夢だと思っていたけど、こんなにあっさり叶うなんて……)



楓は嬉しくてスキップしたいような気分だった。




車に乗ると一樹は腕時計を見る。時刻は午後2時を過ぎていた。



「どっかで昼飯を食ってから帰ろう」

「はい。あ、でも夜は何か作りましょうか? 昨日も外食やテイクアウトだったし」

「楓は料理は出来るのか?」

「お洒落な料理は作れませんが普通のものだったら」

「じゃあお願いしようかな。帰りにショッピングモールに寄って食材を買って帰ろう。他にいるものがあればそこで買うといい」

「ありがとうございます」



その後一樹は湾岸沿いにある海が見えるレストランへ楓を連れて行った。



「こんなに素敵なお店、今まで入った事ないです」



窓際の席に座った楓は外に広がる海をうっとりと眺めながら言った。



(この程度で感動するのか? ったく…喜ばせ甲斐のある女だな……)



一樹の頬が緩む。

そして海を眺めながら目をキラキラと輝かせている楓を見つめた。



(あんなに嬉しそうに……全部顔に出ちゃうんだな)



一樹は思わずクスッと笑う。

それに気付いた楓が一樹に聞いた。



「何か可笑しいですか?」

「ん? あ、いや、感情が顔に出るな―って思ってさ」

「よく言われます」

「誰に?」

「施設の園長……あ、母親代わりみたいな人なんですけど……」

「そうか。じゃあ子供の頃からなんだな?」

「そうみたいです……」



楓は急に恥ずかしくなりうつむく。

その時、バッグの中のスマホがブーッブーッと震えた。誰かからメッセージが来たようだ。



「見たら?」

「あ、はい……すみません……」



楓が恐縮しながらスマホを見ると、メッセージは兄の良からだった。

兄の名前を見た途端楓が眉をひそめる。それを一樹は見逃さなかった。



「お兄さんから?」

「え? 何でわかったのですか?」

「顔に出やすいって今言ってたろう?」



一樹はクスッと笑うと、



「貸して」



と手を差し出す。どうやらメッセージを見せろという意味らしい。

楓がおずおずとスマホを渡すと一樹はすぐにメッセージに目を通す。



【楓、今アパートに行ったらもう引越した後だったぞ。新しい住所はどこなんだ? 今から事情を説明しに行くから住所を教えてくれ】



「こういう場合、どうしたらいいんでしょうか?」

「無視しろ。兄貴には住所も勤め先も教えるな。教えたら必ずまた金をせびりに来る」

「でも私が藤堂組にお世話になっている事は伝えたのでもう来ないのでは?」

「いや、来るさ。いいか楓? 自分の事しか考えていない人間っていうのはなぁ、なりふり構わず動くもんなんだよ。それは自分の目的が達成されるまで延々続く。だから決して兄貴には居場所を教えるな」



その時の一樹の表情は、楓が今までに見た事がないほどの真剣な表情だった。

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