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第3話『休日、ふたりの地図の上で』
週末の昼下がり。
街は人でにぎわっているけれど、
その喧騒の中で、あすたとじおるは
人目を避けるように並んで歩いていた。
「ほんとに、外で会うの久しぶりだな」
「はい。休日に、こうして歩くのは……初めてですね」
「へぇ、なんかデートっぽくていいな」
「っ……で、デートって……!」
じおるの耳まで、一瞬で真っ赤になる。
糸目のまま視線をそらし、口元を手で隠した。
「僕たちは……その……」
「恋人だろ?」
「……っ! あすたくん、さらっと言わないでください……!」
「なんで? 本当のことじゃん」
「……そうですけど……照れるじゃないですか」
その様子が可愛すぎて、あすたは笑いをこらえる。
「おまえ、ほんと顔に出るなぁ」
「放っておいてください……」
二人は駅前のカフェに入った。
外の席を選び、風の匂いを感じながら、
あすたはメニューを開いて首をかしげる。
「どれもうまそうだな。じおる、どれがいい?」
「えっと……僕、甘いものはあまり得意ではないので……コーヒーにします」
「じゃあおれ、パンケーキ頼んで一口あげるよ」
「えっ……!」
「だめ?」
「い、いえ……! だめでは……ありませんけど……」
注文を終えて、ふたりの間にゆるやかな沈黙が落ちた。
けれどそれは気まずさではなく、
心地よい「一緒にいる時間」の静けさだった。
やがてパンケーキが運ばれてくる。
あすたがスプーンでひと口分をすくい、
じおるの方へ差し出した。
「ほら、食ってみ」
「えっ……! あの……僕、自分で食べますから!」
「いーから、ほら」
「……っ、あすたくん……」
じおるは、観念したように ほんの少しだけ口を開けて、そっと味わった。
すぐに、頬がほんのり赤くなる。
「……甘い、です」
「だろ? うまいよな」
「……はい。あすたくんの、せいで余計に甘く感じます」
「……は?」
「っ、な、なんでもありません!!!」
じおるは顔を真っ赤にして、カップを持ち上げた。
その仕草がまた可愛くて、
あすたはもう笑いをこらえきれず、そっと頭を撫でた。
「おまえ、ほんと可愛いなぁ」
「……もう、やめてください……」
「やめねぇ」
風が吹き抜け、カップの縁で光がきらめく。
ふたりの世界は、外の喧騒とは少し離れて、
まるで時間がゆっくり流れているみたいだった。
じおるはうつむきながら、
小さな声で呟いた。
「……また、こうして一緒に出かけたいです」
「おう。次はどこ行く?」
「……秘密です」
あすたは笑って、
その秘密の続きを楽しみにするように、
じおるの肩に軽く触れた。
——ふたりの休日は、
まだ誰にも知られないまま、やわらかく続いていった。
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第4話 12/14 投稿予定