「ちょ、おい暁兄!せっかく俺がパフェを作ってあげたのに邪魔するなよ!」
食って掛かる拓弥くんとの間に、わたしは慌てて割って入った。
「大丈夫ですっ。わたし、ふたつとも食べれちゃいますからっ。だって、どちらもここに入る前から大好きだったメニューなんですもん」
と、にっこり笑って見せると、
あれ…
暁さんも拓弥くんも、じっとわたしを見つめたまま顔を赤くしている…。どうしたんだろう?
「あーもうやっぱすっげぇ可愛い!日菜ちゃん」
「まるで君自身がスイーツみたいだね。俺のワッフルも、日菜ちゃんの愛らしさには敵わないよ」
「え!な…ちがいます!おふたりのがすごく上手だから…!パフェもワッフルも最高に美味しくて、元気にならないほうがおかしいし…!」
必死で言葉を並べると、拓弥くんははじけるような笑顔を、暁さんはとろけるようなやさしい微笑を浮かべた。
「そんなこと言われると、俺の方が元気出まくっちゃう!」
「君の方が、ずっと上手だよ。俺たち作り手のよろこばせ方が」
あれ?
あれあれ…?
右手は拓弥くんに、左手は暁さんに取られてしまった…!
「日菜ちゃん…俺もうがまんできない。今度一緒にデ」
「ちょっと待て拓弥くん。ここは年長者に譲るべきじゃないのかい?」
「るさいっすよ、おじさんは黙っててください」
「お、おじ…聞き捨てならないな。成人してまだ1年しか経ってないのに」
「年上強調してくんのが、おっさんの証拠だっての」
「ふぅん。言ってくれるねぇ、拓弥くん」
あれ、あれ…!?
なんで険悪ムード?
「ちょっと…ふたりとも待っ…」
ぱこんぱこーん!!
と、言う前に、リズミカルな音が鳴った。
「仕事サボって、なにしてんのおまえら」
手に丸めたメニューを持った榊くんが、怖い顔で二人を見下ろしていた。
「げ!晴友!」
「…やぁおつかれさま、晴友くん」
「じゃねぇだろ、ったく。…おまえら、勝手に店の材料使ってそいつに餌付けしてんじゃねぇよ」
「これはおごりってことで給料から差っ引いてもらうからいいんだよー」
拓弥くんがべっと舌を出して言い返すと、榊くんは顔を引きつらせた。
「ほぉ…。じゃあ勤務サボった分も上乗せして給料から差っ引いてもらうようオーナーに言っておくか?」
「ええええ!」
「そ、それはやめてほしいな、晴友くん…」
さすがの二人も蒼白となる。
オーナーとは祥子さんのことだ。
祥子さん…わたしたち女の子にはやさしいけど、男の子たちには怖いもんねぇ…。
「だっておまえが悪いんだぞ、晴友」
「ああ?」
「おまえが日菜ちゃんにキツく当たって落ち込ませるから、なぐさめてたんだぞ!」
「晴友くん、女の子の扱いはもっとやさしくしないといけないよ」
榊くんは、ちっと舌打ちした。
「おい立花」
「は、はい!」
「おまえもコイツらに甘えるな。元はおまえがグズなのがいけないんだからな」
「は…はい…」
「日菜ちゃんは甘えてないぞ!おまえがキツ過ぎるんだよ!」
「そうだよ晴友くん。日菜ちゃんは初めてのアルバイトなんだから、もっと大目にみてあげないといけないのに。指導方法にも問題があるんじゃないのかい?」
「第一さー、おまえの教え方って、まるでイヂめてるみたいじゃねぇか」
「そうそう。はたから見てても意図的な悪意を感じるよね」
二人の問い詰めに、怖い顔を貫いていた榊くんの顔が、すこし、ピクリと動いた。
「ち、ちがうよ、ふたりとも…!榊くんはたくさんわたしのフォローしてくれているよ?イヂめなんて…。悪いのはドジばっかりするわたしだよ」
わたしのせいで、榊くんが気不味く思うのは申し訳ない。
すこし重くなった雰囲気を変えたくて、わたしは声を明るくした。
「ふたりに励ましてもらって元気が出たから、残りも時間もがんばるね。よろしくお願いします、榊くん」
「えーいいよ、今日はもう晴友の言うことなんかきかないで俺と一緒にパフェつくりの練習し…いでっ」
「こいつの指導係は俺だ。拓弥は今サボってる分も働け」
「なんだよー!晴友だけ日菜ちゃんひとりじめしてずりぃのー」
「っるせぇ、俺だって好きでやってるわけじゃねぇんだよ」
ずきり…。
榊くんの言葉は、わたしの胸をぐさりと刺した。
そうだよね…。
やっぱりわたしの面倒なんか、みたくないよね…。
おずおずと見上げると、榊くんはよりいっそう眉間にしわを寄せて顔をそむけた。
…ああ、やっぱり、嫌われてるんだな…わたし…。
「じゃあさー、好きでやってないなら、俺にその役ゆずってよ」
「は?」
「やさしいこの拓弥くんが、イヂめっ子な晴友に代わって日菜ちゃんの指導係やってやろう、って言ってんだよ」
榊くんは不愉快そうな顔のまま黙っていた。
その沈黙が、苦しかった。
榊くん…「ぜひそうしてくれ」って言うだろうなーーー…。
「だめだ」
え…?
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