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怜は偶然とはいえ、約一週間振りに奏に会えたせいか、表情を微かに綻ばせながら彼女の横に座った。
「結婚式以来だな。あれから体調は大丈夫か?」
「全然大丈夫です」
初めて会った時と変わらず、人を突き放すような冷たい雰囲気だな、と苦笑を見せつつ思うと、怜は奏がどことなく怒っているようにも見えた。
すると、突然彼女が突っかかるような口調で、怜に言葉を投げつける。
「っていうか、恋人をほったらかしにして、こんな所にいて良いんですか? 彼女、あなたの事を探してるかもしれないですよ?」
「は? 恋人? 彼女?」
奏の言っている事が理解できず、怜はきょとんとした面差しで彼女を見返した。
「それに、私に気付いてわざわざ着替えて、前髪も少し下ろしてきたんですか?」
「え? すまない、意味がわからないんだけど……」
今の怜の服装は、光沢のあるグレーのスリーピースに、ダークネイビーに白の細かいドット柄のネクタイを合わせている。
奏は、構わずに早口で怜を捲し立てる。
「私と一緒にいたら、彼女、怒るんじゃないですか? 葉山さん、彼女がいるのに、よく平気で私を食事に誘えますよね? ありえないんですけど」
(わざわざ着替えて? 前髪も少し下ろして? 彼女? って、もしかして……)
ようやく合点がいった怜は立ち上がり、奏を見下ろしながらニヤリと悪戯っぽく笑った。
「意地の悪い笑顔を見せるとか、ワケわからないんですけど」
更に言葉で責め立てる奏に、怜は彼女の頭をふわりと撫で、唇に弧を描かせる。
その表情と仕草に、奏の胸の奥がキュっと締め付けられた。
「恐らく、君は壮大な勘違いをしているようだな。ちょっと待っててくれるか?」
怜は、奏から離れると、パーティ会場の中に入って行った。
***
「……は?」
数分後、怜が男女二人を連れて、奏の所へ戻ってきた。それも、先ほど会場でピアノを弾いている時に見かけたカップルだ。
奏は思わず黒い礼服を纏っている男性を二度見した後、怜をガン見してしまう。
「君が見たのは、俺の双子のアニキだ。で、彼女はアニキの婚約者な」
失礼ながらも、奏は怜の兄をマジマジと見つめた。
「ふ……双子!?」
双子だから当たり前だが、あまりにも怜と似過ぎる男性に、呆気に取られた奏。
兄の方が、どちらかというと顔立ちが柔らかい。それでも、このイケメン双子の区別は付かないな、と思う。
男前男子が、それも双子とくると、顔面偏差値の高さと破壊力が半端ない。
「初めまして。怜の双子の兄、葉山 圭と申します」
圭がキラキラした笑顔を向けながら、奏に一礼する。続けて圭の隣にいる女性も、奏に会釈をしながら自己紹介した。
「初めまして。圭さんの婚約者、園田 真理子と申します」
まだ呆気に取られている奏を横目に、圭が言葉を繋げる。
「怜が慌てて俺たちの所に来て、『誤解を解いて欲しいから、二人ともちょっと来い』なんて言うから何事かと思ったけど、なるほど、そういう事か……。で、先ほどから素敵なピアノを聴かせてくれている綺麗な彼女は?」
圭が怜に話を振ると、彼が唇を僅かに綻ばせながら奏を紹介した。
「ああ、彼女は先週出席した友人の結婚式で知り合った、音羽奏さん。俺の友人の奥さんの小中学校時代の友人なんだけど、披露宴のBGM担当でピアノを弾いてたんだよ」
「初めまして。本日、ピアノの演奏を担当させて頂いてます音羽奏と申します」
奏は、自己紹介しながらふと思う。
(葉山。葉山って事は……このイケメン双子、もしかして……)
奏は瞬きしながら口を半開きにして、間抜けな表情で怜と圭を交互に見やった。
圭は奏の言いたい事を何となく察したのか、胸ポケットから名刺入れを取り出し、奏に一枚差し出した。