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メルヴィナが連れていかれた先を見ていると、警備の騎士たちがアリアを囲んだ。
「失礼ですが、どちらの所属で?」
「異端諮問局ですが、こちらには偶然迷ってしまいまして」
「……そうですか。この先は現在、使用中ですのでお引き取りを」
「ちなみに、どの局が使っているんですか?」
「公開しておりません」
アリアの質問に、警備の騎士は冷たく答える。
廊下は彼らによって塞がれており、このままでは単純に進むことができない。
……天井が高い廊下のため、上を抜けることはできるが……それでは完全に敵対してしまう。
「そうですか。お邪魔しました~」
「おい、このまま引き下がるのか?」
アリアの決定に、ザインは少し不満そうだ。
「あからさまに敵対すると、動きにくくなっちゃうからね。
何をやってるのかは知りたいから、まずは忍び込んでみよう」
「ふむ? 変装でもするのか?」
「たぶん身元を照会されるから、それ以外の方法だねぇ」
「さすがだな。次の手はしっかりある、と。
楽な方法ならいいんだが……」
「あたしは楽だけど、情報屋は――」
「……え? もしかして、俺だけ大変なの?」
アリアはザインをまじまじと見つめたあと、ふふ……っと不敵な笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……うおおおぉ!!」
「こら~。声を出さないの!」
薄暗い中、四つん這いになって進むザイン。
それにおぶさる形で、アリアがザインの上に乗っていた。
「大聖堂の内部の構造は、以前に図面で見たことがあるからね」
「それにしても普通、通気口の配置まで覚えているものか……!?」
ザインは引き続き、腕と足を使って必死に進んでいる。
アリアはおぶさっているので、何もせず、待っているだけで良い。
「何があるか、わからないからね~? 実際、今はちゃんと役に立ってるわけだし」
「先読みが過ぎる……。……あと、それにしてもさぁ……」
「んー?」
「お前、胸が当たってるんだよ……。俺の背中に……!」
「きゃー、やだーっ♪」
「……変に恥ずかしがらないから、そこは助かるんだが……」
それでもザインには思うところがあり、本調子ではいかなくなってしまう。
ただただ、この時間が早く過ぎ去ってくれることを祈るばかりだった。
「……なんて話してたら、光が見えてきたね。もうすぐだよ!」
「おう、任せとけ!」
さらに進むと、部屋の内部が見えてきた。
アリアたちが潜入した通気口は部屋の上の方にあり、全体が見渡せる位置にあった。
広い部屋の内部は暗く、ろうそくの明かりだけが揺らめいている。
机や椅子はなく、何人もの信徒たちが床に直接座っていた。
「これは……、礼拝?」
「昼間っから、こんな暗くして……か?」
ザインの言う通り、こんな環境での礼拝を、アリアは見たことがなかった。
礼拝に参加しないことを決めている彼女であっても、この異様さは分かるのだ。
長い時間、そのまま待っていると……一番前の壇上に、1人の男性と1人の少女がやってきた。
「あれは――」
「我らがメルちゃんと……もうひとりは、誰だろう?」
アリアの記憶には無い男性だった。もちろん、主教や大司教……ということでもない。
しかし彼らの姿を見ると、その場にいた信徒たちが歓喜の声を上げた。
「本日はよくぞお集まり頂きました。
この場所で、どうか我らの悲願を達成いたしましょう!!」
「「「うおおおぉーッ!!!!」」」
その反応にびくっとしながら、壇上のメルヴィナは美しい光の紋様を描き出した。
今までに見たことはない、どこか植物的なモチーフの……樹、のようなもの。
アリアは目を細めて、メルヴィナをよく観察する。
「……手が、震えてるね」
「表情も……。何だか、こっちが泣いちまいそうだよ」
引き続き様子を窺っていると、神職者の男性は香を焚き始めた。
独特の香りがするが、壇上のふたりのところへは届いていないようだ。
どちらかというと、通気口に向かって――つまり、礼拝堂を流れる空気は、アリアとザインの元に向かってしまう。
「あー……。これ、幻覚系のお香っぽいね。
それも……うーん? いろいろと組み合わせているみたい」
「げっ、冗談じゃないぞ!? おい、戻ろうぜ!!」
「そうだねぇ……。それじゃ、急いで戻って!」
「急ぐのに、俺任せなの!?」
「いや、だって……。今さら姿勢、変えられないし……」
「くぅっ、やったらぁ……!!」
ザインが後ろ向きで通気口を戻る中、信徒たちの断末魔の叫びのようなものが……聞こえたような、気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――通気口から出て、メルヴィナと会った廊下に行ってみる。
しかし警備の騎士たちから、戻るように言われてしまった。
それでも偶然を装って通り掛かり、何とかメルヴィナの姿を確認すると――
……彼女は気絶していて、搬送されているところだった。
「ちょっと、一体どうしたんですか!?」
「邪魔をしないでください。今、診療に向かうところですから」
「付いていっても――」
「この先は関係者以外、立ち入り禁止です。お引き取りを」
例によって、警備の騎士たちが道を塞ぐ。
ここはやはり、力技で――
「落ち着けって。とりあえず、オリバーさんに相談しようぜ?」
「……うん、そうだね。
それはそれで嫌なんだけど……まぁ、現実的だよね」
「おう。今は、アリアっぷりを発揮するところじゃないぞ。
暴れられるようになったら、思いっきり暴れてやろうぜ?」
「あたしのこと、何だと思ってるのよ……」
「暴れたいときに、暴れるヤツ」
「……ふふっ。そのときは、絶対に止めないでねぇ?」
冷静を取り戻してから、アリアたちはオリバーの執務室に向かった。
そして、今までにあったことを話していく。
「ふぅむ……。地下の礼拝堂は、ずっと封印されていた場所だ。
あの建物自体、管理しているのは大司教殿なのだが――」
大司教というのは、オルビス教団のナンバー2の実力者だ。
ナンバー1の主教を支え、教団全体に目を光らせている。
「オリバーさんの力で、何とか調べることはできませんか?」
「我が異端諮問局は、教団の内部でも調査をすることができる。
しかし、大聖堂の一部については……主教殿か大司教殿の許可が必要なのだよ」
「中枢の人間が変なことをしない、っていう前提でルールができているんですよね。
昔も問題があったのに……」
「しかし、具体的な証拠を掴めれば、異端諮問局として動くことができる。
すまんが、アリアの方で独自に動いてくれないか?」
「異端諮問局の弱いところですね。オリバー様、主教になって改革しましょう」
「ははは、無理を言うな。
それに、大聖堂の中ではそういうことは言ってはならないよ」
「確かに、どこに耳があるか分からないからな。
アリアはお偉いさんに気に入られているそうだから、上手く取り入ってみる……とかは?」
ザインはメルヴィナから聞いていた話を、アリアに振ってみた。
アリアはそれを、あっさりと否定する。
「気に入られている……というか、目障りにされているんだよね。全然違う話だよ?」
「あ、そうなんだ? だからアリアは、ずっと外回りをしてるの?」
「それだけじゃないんだけどね」
話が少し逸れたので、アリアは改めてオリバーに向き直る。
「それではあたしなりに調査を進めます。
何かあったら、オリバー様が責任を取ってください」
「ははは、お手柔らかにな」
オリバーはひとしきり笑ってから、ザインの方を見た。
「さて……話は聞いた通りだ。
ここからは教団内部の問題。従って、ザイン君にはここからは控えて頂こう」
「え? いやいや、今さらそんな……。
アリアだけだと危険じゃないですか。それとも、他に誰かを付けてくれるんですか?」
「いいや? この問題はとてもセンシティブだからね。私とアリアだけで進める予定だ」
「それなら、やっぱり俺が――」
ザインはオリバーに抵抗した。
いくらアリアだとしても、先ほどのような場所に彼女だけで飛び込んでいくのは、明らかにまずい……。
それならひとりでも、彼女の味方になった方が良い……そう思ったのだ。
アリアはそんなザインを見て、いつになく真面目な顔をしている。
「――ふむ、よかろう。
それではザイン君の実力を見させてもらうとしよう」
「私の……実力?」
オリバーは静かに、壁に飾っていた杖を手に取った。
大きさも重量感も、まるでオリバーのためにあつらえたもののように感じる。
「ここから先は、多少の腕……だけでは危険だ。
――少なくとも、私を軽くねじ伏せられるくらいの力がなければなッ!!」
「……お言葉ですが、私はそれなりにやりますよ?」
ザインは素早く動き、オリバーのテーブルにあった定規を手に取った。
武器は持ってきていないので、短剣の代わりに……という意図だ。
「ふふふ、ただの定規で戦おうと?
……ちなみに、アリアが杖術を使うことは知っているかな?」
突然の言葉に、ザインは記憶を辿る。
大聖堂に来る前……ダンジョンで見た、圧倒的な杖さばき――
……多くの魔物をあしらうように倒していたアリアの姿は、今も目に焼き付いている。
「それが……、何か?」
「くくくっ。アリアに杖術を教えたのは――
この私なのだよ……ッ!!」
圧倒的な自信。それに見合うだけの貫禄。
若さという力があるなら、世の中には老練という力もある。
ザインがゴクリと生唾を呑み込んだ瞬間、オリバーはまっすぐに、杖を振りながら踏み込んできた。
「――ッ!?」
ザインはそれに反応して、吸い込まれるようにして一歩を踏み込んでしまう。
そして――
スコーンっ
「――くぅっ!?
や~ら~れ~た~……っ!!」
「……は?」
ザインが構えていた定規に、オリバーは思い切り突っ込んでいった。
そしてそのまま、脇腹に変な角度で一撃を受けてしまったのだ。
「……ふふふ。ザイン君、やるではないか!
君の覚悟、見届けさせてもらったよ……。アリアのことは頼んだ……」
「オリバー様ぁーっ!!」
崩れ落ちるオリバーに、アリアの悲痛……ではない、白々しい声が響く。
「え、えーっと……。それはどうも……?
っていうかアリア、本当にオリバーさんから杖術を習ったの?」
「オリバー様。この男、疑っているみたいです。実力をしっかり見せてあげてください」
「ふむ……、それは本懐ではないな。疑うというなら、お見せしよう」
そう言うとオリバーは改まって、杖を持って構えた。
そして杖を手で1回転させ、びしっとザインに突き出す。
「――……ふっ。どうかね?」
「え? それって――」
「うむ……。私が編み出した、『カッコいい構え』だ!」
「うーん、やっぱりオリバー様のは渋いですねぇ……」
アリアは感心しながら、オリバーの横に寄り添う。
えーっと、つまり……教えたのは、強くなる方法とかではなくて――
「見た目的な……ことですか?」
「うむ、必要だろう?」
「必要ですねぇ」
「……必要か?」
必要です。
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