テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ガラリアやヴァルケン国の歩兵は、
グラン王国の歩兵とはまるで異なる戦い方をしていた。
グランの兵は、大きな盾を前へ突き出し、短剣を巧みに操る。
盾で受け、剣で刺す。
幾世代にもわたって磨き上げられてきた、堅実な戦法だった。
だが北の戦士たちは違う。
彼らは盾を持たない。
代わりに、柄の長い巨大な戦斧や、斧のように重量を持たせた両手剣を握る。
「うおおおおっ!」
雄叫びとともに振り下ろされる一撃は、盾で受け止めることを前提としていない。
木製の盾は砕け、
腕は痺れ、
受け損ねれば鎧ごと叩き割られる。
力任せ――。
そう侮った者ほど、その豪快な一撃の前に命を落としてきた。
北方の戦場では、盾を守ることより、
盾ごと敵を叩き潰すことが常識だったのである。
「前々から考えていたんだよ。」
アグリは工房で完成したばかりの防具を手に取った。
無数の鉄輪を編み込み、一枚の鎧に仕立てた新装備。
職人たちはそれを誇らしげに見つめている。
「鎖帷子ですか。」
副官が尋ねる。
「ああ。斬撃には強い。北方の重い刃を受け止めるには、これしかない。」
数日後。
新装備は前線の兵たちへ支給された。
しかし歓迎されたとは言い難い。
「重い……。」
「これじゃ歩くだけで疲れちまう。」
兵士たちは口々に不満を漏らした。
普段の革鎧に比べれば重量は倍近い。
慣れない鉄の感触に、誰もが顔をしかめる。
そんな兵たちの前へ、アグリは静かに歩み出た。
鎖帷子を身につけた兵士の肩を軽く叩き、にこりと笑う。
「すぐ慣れるよ。」
あまりにも気楽な一言だった。
兵士たちは苦笑しながら顔を見合わせる。
「本当ですかね。」
「本当さ。」
アグリは穏やかな口調のまま続けた。
「重さには、そのうち慣れる。」
兵士たちがほっと息をついた、その時だった。
「あ、それと兜も替えた。」
「え?」
「鼻当てを付けて、頭頂部も厚くした。」
#古代
眠狂四郎
521
#ドラマ
眠狂四郎
284
#ドラマ
眠狂四郎
196
#戦国時代
眠狂四郎
153
兵士たちがざわつく。
アグリは気にも留めず続けた。
「ああ、そうそう。」
思い出したように指を鳴らす。
「盾も新しいのに替えておいた。」
「まだあるんですか!?」
思わず兵士の一人が叫ぶ。
アグリは悪びれる様子もなく笑った。
「大丈夫。そのうち全部慣れるよ。」
兵士たちは顔を見合わせ、一斉にため息をついた。
「なんだ、あれは?」
丘の上から戦場を見下ろしていたヴァルケン兵が目を丸くした。
グラン軍は一列ではない。
幾重にも重なる巨大な盾の壁。
前列は膝をつき、
後列はその頭上へ盾を重ねる。
鉄と木でできた巨大な壁が、戦場を横一文字に塞いでいた。
「グラン人は亀にでもなったつもりか?」
誰かが笑う。
「ははは!」
「怖くて頭も出せんらしい!」
たちまち周囲は爆笑に包まれた。
北方の戦士たちにとって、敵は前へ出て斬り結ぶものだった。
守るためだけに身を縮める姿は、臆病者の証にしか見えなかったのである。
その報告は後方のアテイラにも届けられた。
アテイラは表情一つ変えず、隣に控える軍師オルフェンスへ視線を向ける。
「予定どおりだ。」
オルフェンスは静かにうなずき、伝令へ命じた。
「布陣を開始せよ。」
征服した諸部族の軍勢を左右両翼へ。
中央にはヴァルケン国が誇る精鋭歩兵。
そのさらに後方には、アテイラ自ら率いる黒騎兵。
突破力だけを極限まで高めた陣形だった。
「中央を砕く。」
アテイラは短く告げる。
「道は、力で開く。」
号令とともに軍旗が翻り、数万の兵が一斉に前進を始めた。
地鳴りのような足音が、大地を震わせた。
「大丈夫かなあ……。」
ティモシーが胸元の鎖帷子を引っ張りながらぼやいた。
「何が?」
隣を歩くドルトスが首をかしげる。
「この鎧だよ。」
ティモシーは肩を回した。
鉄輪がじゃらりと音を立てる。
「これってさ、剣闘士が腕につける防具みたいじゃない?」
「重いし、動きづらい。」
「そうか?」
「なあ、ドルトス。」
ティモシーは急に真顔になった。
「お前、突撃して敵にかわされたらどうする?」
「え?」
「勢い余って大きな隙ができるだろ。」
ドルトスは言葉に詰まった。
今までの自分なら、そのまま力任せに剣を振り回していただろう。
ティモシーは新しい盾を軽く叩き、笑った。
「守るって、案外面白いな。」
「……。」
ドルトスは黙って前を向く。
(兄さんとアグリ殿は、よく似ている。)
剣の速さや力ではなく、
どう戦えば生き残れるかを考えている。
その発想が、自分にはまだ足りなかった。
ドルトスは盾を握り直した。
(俺も、もう少し頭を使って戦ってみるか。)
アテイラ軍歩兵隊長ガラメールは、敵前列を覆う盾の壁をじっと見つめていた。
鉄で補強された大盾。
その隙間からは槍の穂先がいくつも突き出している。
「……堅いな。」
腕を組み、小さくつぶやく。
「どうするかな。」
ガラメールは、この侵攻で幾つもの都市を落としてきた。
城門を破り、
城壁を崩し、
抵抗する兵を踏み潰してきた。
「……堅いな。」
彼は盾の壁を見つめた。
「別に正面から叩き潰してもいいんだが……。」
「もっと他に、何かないもんかな。」
ガラメールは笑った。
勝つことよりも、
どう勝つか。
その一手を考えるのが、彼は嫌いではなかった。
コメント
1件
第19話、めちゃくちゃ熱かったです……! アグリの「そのうち慣れるよ」連発、笑ったけど兵士たちの困惑が目に浮かんで好きです。ティモシーが「守るって面白いな」って気づくシーン、じーんと来ました。盾の壁で固めるグラン軍と力任せの北方軍、対比がカッコいいし、どうやって戦うんだろうと続きが気になります!