テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
電池切れで止まってしまったのか、奈美の腕時計の時刻は、豪の部屋を出る直前の時間、十二時五十八分のままだ。
「あれ……」
彼女が腕時計を見たままの様子に変だと感じたのか、豪が見下ろした。
「腕時計の電池が切れちゃったみたいで……」
「どれ……」
豪が奈美の手首を握り、ボロボロになった大きめの腕時計を見る。
「使い込んでいる感じの腕時計だな。しかもけっこうゴツいし、奈美がこういう時計をするっていうのが意外だな。メンズの時計か?」
「そ……そうです。め……メンズの腕時計って、大きくて見やすいから好きなんです。今の私の服装には合わないですけどね……」
彼女は、曖昧に笑いながら時計を外し、そそくさとバッグの中にしまい込む。
「もしかして…………元彼からプレゼントしてもらった腕時計とか?」
「…………」
バレてしまった。
元彼からの唯一の頂き物が、この止まってしまった腕時計だ。
別に隠してたり、元彼に未練があるとか全くなくて、他の腕時計を買う余裕もないし、腕時計がないと落ち着かないから、そのまま使い続けているんだけど……。
「黙ってるって事は、元彼からもらったやつなんだな?」
豪が、少しムッとしたような声で聞いてきたから、ちょっと怖くなって、おずおずと肯首した。
「……そうか。とりあえず、奈美の買い物を先に済ませよう」
素っ気ない言い方ではあったけど、豪は奈美の手を繋ぎながら、アウトレットモールへ足を運んだ。
モール内は、凄い人混みだった。
豪と手を繋ぎながら、様々なお店を回る。
お洒落な雑貨店では、お揃いでマグカップとバスタオルを購入した。
マグカップもバスタオルも、奈美の物はパステルブルー、豪のものはチャコールグレー。
彼の中では、彼女のイメージカラーは、パステルブルーのようだ。
思い出したように、豪がスリッパ、箸とカトラリーを追加で購入。
これもお揃いで、パステルブルーとチャコールグレーという徹底ぶり。
その後、ワンピースやスカート、カットソーやテーパードパンツなど洋服数点を購入した後、パジャマや部屋着もお買い上げ。
会計は全て、豪が出してくれた。