テラーノベル
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昼寝から目覚めた二人は、出掛ける準備をした。
栞は、デニムに黒のタンクトップ、その上から透け感のある白シャツを羽織った。
胸元には、直也が贈ったダイヤのネックレスが輝いている。
直也の仲間たちはカジュアルな服装が多いので、栞もそれに合わせることにした。
直也と付き合い始めてから、栞の魅力は一層際立つようになっていた。
肌は艶を増し、しっとりした長い髪には女の色香が漂っている。メリハリのある身体のラインは、女性らしいシルエットを描いていた。
直也はそんな栞に見とれた。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
直也は甘く囁きながら、栞を抱き締め耳にキスをした。
「フフッ、くすぐったい」
「じゃあ、行こうか」
今夜は飲む予定だったので、二人はタクシーで店に向かった。
『辻堂の父』菊田が経営するカフェは、シャビーなブルーグレーの外観に、白いウッドデッキが印象的な店だ。
店内には、すでに何人かの仲間が到着していた。
「菊田さん、ご無沙汰です! 今夜はお世話になります」
「おーっ、直也、久しぶり! よく来たなぁ。最近顔を見せないから心配してたぞ。倒れてるんじゃないかってなぁ」
菊田は豪快に笑いながら言った。
彼は、60歳前後の白髪交じりの男性で、長い髪を後ろで一つに結び口髭を生やしていた。
日に焼けた笑顔が印象的で、優しそうな紳士だ。
「いやぁ、マジ、大学病院のシフトが鬼すぎて、寿命が縮みそうですよ~」
「おいおい、健康には気をつけろよー! こんなに可愛い彼女ができたんだからなぁ」
菊田はそう言って、栞にウインクをした。
「あ、彼女は鈴木栞さんです。こちらは菊田さんね」
「初めまして、鈴木です」
「どうも初めまして、菊田です。今日はようこそ! 楽しんでいってくださいね」
「ありがとうございます」
栞は菊田に微笑んだ。
「ところで、栞ちゃんもサーフィンしたんだって?」
「はい、とっても楽しかったです!」
「おー、そりゃよかった! この店では、サーフィンと海を愛する人は大歓迎だよ! いつでも気軽に遊びにいらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
その時、バックヤードから50代くらいの女性が現れた。
「あらぁ~、直ちゃん久しぶり~!」
「優子(ゆうこ)さん、ご無沙汰しています」
女性は菊田の妻だった。
「わぁ、そちらが直ちゃんのカノジョ~? すごく素敵な人じゃない!」
直也に恋人ができたという噂は、すでに広まっているようだ。
「鈴木栞です。今日はお招きいただき、ありがとうございます」
「初めまして~、菊田の妻の優子です! お会いできるの楽しみにしてました~! え? 栞ちゃんって、まだ大学生なの?」
「はい、今は二年です」
「キャーッ! 直ちゃん、それって犯罪じゃないのーっ?」
優子はそう言って、キャッキャッとはしゃいでいる。
「もう、優子さんまでやめてくださいよ~! 佐野にも散々からかわれたんですから」
その時、店のドアが開き、ちょうど佐野が入って来た。
「俺のこと呼びました~?」
「お前、タイミング良過ぎるんだよ!」
「へへッ!」
佐野は笑いながら、隣にいる女性を栞に紹介した。
「こっちは、俺の彼女で吉川綾(よしかわあや)ちゃん! で、こちらが鈴木栞ちゃんね」
「どうも、吉川綾です」
「初めまして、鈴木栞です」
綾は、ロングヘアのとてもチャーミングな女性だった。
「綾さんはフラダンスをやってるんだよ」
「フラダンス? わぁ、素敵ですね!」
「ありがとう! もうすぐ発表会があるから、毎日練習で身体がボロボロなんだけど、今日は栞ちゃんに会いたくて来ちゃった!」
綾はそう言って笑った。
その後、サーフィン仲間たちが続々と店へ入ってきた。
直也のバンドでギター担当の北沢(きたざわ)とベース担当の有田(ありた)も来店したので、直也は二人に栞を紹介した。
仲間がほぼ揃ったところで、食事会が始まった。
今夜のメニューは、湘南の海の幸をふんだんにつかった海鮮丼をメインに、このカフェの人気メニューが並ぶ。
海鮮丼を食べた栞は、海の幸の新鮮さに驚いていた。
「地元の同級生に漁師をやってるやつがいるから、いつもそこへ頼むんだよ」
菊田の説明を聞き、栞はなぜ新鮮なのかがわかった。
店のカウンターにはさまざまな種類の酒がずらりと並び、自由に飲めるようになっていた。
もちろん、女性向けのデザートも用意されている。
栞は綾とすっかり意気投合し、ハワイやフラダンスの話で盛り上がった。
参加者たちが談笑していると、突然ギターの音が響いた。
音のする方を振り返ると、北沢と有田がギターを手にしている。
「いよいよ、演奏が始まるわよ」
綾の言葉に、栞の胸が躍った。
「直也パイセン、今日は三曲やりますからねー!」
「了解」
直也は椅子から立ち上がると、ドラムセットの方へ向かう。
そして、ドラムの前に座りスティックを持つと、こう呟いた。
「久しぶりだから覚えてるかなぁ……」
「何を言ってるんすか! 身体が覚えてるでしょ、身体が!」
栞は胸が高鳴っていた。直也の演奏する姿を見られるとは思ってもいなかったからだ。
その時、菊田がバンドを紹介した。
「では、みんなの再会を祝して、我がサーフチームが誇るロックバンド『ストリンガー』が……ん? 何年ぶりだ? 三年ぶりくらい? とにかく、超久々に再結成したので、どうぞ懐かしい音を楽しんでください。では、どうぞ~!」
菊田の挨拶が終わると、店内は盛大な拍手に包まれた。
「ワン、トゥー、スリー、フォー」
掛け声と共に直也がスティックを振り下ろした瞬間、激しい演奏が幕を開けた。
身体の芯まで響くような大音量。研ぎ澄まされたギターの高音、そして低音で響くベース、それに直也の力強いドラムが加わり、迫力のある演奏が始まる。彼らのジャンルは、魂を揺さぶるロックだった。
リズム感溢れる前奏が終わると、ボーカルの佐野がマイクを手にし、歌い始めた。
(えっ?)
それは、甲高く見事な声だった。先ほどまでふざけていた佐野とは、まるで別人だ。
声量溢れる伸びやかな声は、プロのバンドのボーカルにも引けを取らない。
栞は思わず綾に顔を近付けて、こう言った。
「佐野さん、かっこいいですね!」
「でしょう? 私、あの歌声にすっかりやられちゃったの」
綾は嬉しそうに笑った。
演奏も見事なものだった。ギターもベースもドラムも、久しぶりとは思えない素晴らしい音を奏でている。
栞はまるでプロのライブを見ているような感覚に包まれる。
(先生、かっこいい!)
栞の瞳は直也の演奏に釘付けになる。
長い髪を振りながら力強くドラムを叩く直也の姿は、とてもセクシーだった。
彼の逞しい動きを見ながら、栞は芯の部分が熱く疼いてくるのを感じた。こんな感覚になったのは初めてだ。
栞は今すぐにでも直也に抱かれたいと思っている自分に気付いた。
次から次へと溢れ出る欲望は、自分ではもう止められない。
初めて感じる感覚に、栞は少し戸惑いつつ、なんとか座っているのが精一杯だった。
三曲演奏を終えると、直也がテーブルに戻ってきた。汗びっしょりの直也が栞に尋ねた。
「どうだった?」
すると、栞は直也の耳元に口を近付け、少し恥じらいながら小さな声で言った。
「すごく素敵だった! 今すぐ抱いて……」
栞は酔った勢いで、思っていることをそのまま口にしてしまう。
その瞬間、直也の顔が微妙に変化した。
「ホテルへ帰ろう!」
直也は栞の手を取ると、椅子から立ち上がった。
「あれっ? パイセン、もう帰るんっすか?」
「ああ、もう十分楽しませてもらったからな! じゃあ、またな!」
直也は笑顔で佐野の肩をポンと叩くと、綾に会釈をしてから菊田夫妻の元まで行く。
そして、挨拶を済ませた後、二人は店を後にした。
手を繋いで店を出る二人を見ながら、優子が夫の菊田に話しかけた。
「若いって、いいわねぇ~」
「うん。俺たちも、あんな頃があったな~」
二人は顔を見合わせ、フフッと笑った。
外に出た直也と栞は、タクシーを呼んですぐにホテルへ戻った。
部屋へ入ると、ベッドまで行く時間ももどかしくて、その場で抱き合いキスを始めた。
何度キスをしても足りない。それほど二人は互いを欲していた。
キスを続けながら、柑橘系の爽やかな香りが栞の鼻を突いた。今夜は直也の汗の匂いが混ざり、少しワイルドに感じる。
それが、さらに栞の興奮を高める。
「せん…せい……」
おねだりするような栞の声を聞き、直也はすぐに彼女を抱き上げベッドへ連れていった。
二人並んでベッドに横たわると、直也は栞の左腕を持ち上げ、わきに鼻を埋めた。
栞から放たれるフェロモンを吸い込もうと、直也は一心に匂いを嗅ぐ。
「やばいな……栞の匂いだけでイキそうだ……」
直也の声はかすれていた。
「私も先生の匂いが好き。あの日、クリニックで抱き上げてもらった時の先生の匂いがずっと忘れられないの……」
「僕だって、君の甘い香りにどうかなりそうだったよ」
「先生も?」
「ああ。でも、今の栞の匂いはもっと好きだ」
そう言って、もう一度わきに鼻を埋めた。
「フフッ、先生くすぐったい……」
「たまらないよ……ずっとこうしていたい……」
それから直也は、栞の首筋に唇を這わす。
直也から愛されながら、栞はこの上ない幸福感に包まれていた。
自分は愛しい人にこんなにも求められている、こんなにも必要とされている……そう思うと、女に生まれた喜びが身体中から溢れ出してくる。
(先生に出逢えて良かった……)
次第に激しくなる直也からの愛撫を受け、栞の口から声が漏れ始めた。
二人は、東の空が白み始めるまで、何度も何度も深く愛し合った。
コメント
43件
拓くん、やはり居なかった😢 拘り過ぎな私💦 想いのまま愛し合う〜羨ましい〜🥰💝😍🎉
菊田さん&優子さん、お久しぶりです~🥰 なんと!! 栞ちゃんったら、ドラムを叩く直也先生にやられちゃって、大胆❤❤❤ でも、直也先生♡嬉しいね~❤
ここでも繋がってた〜💞 菊田さんに優子さん佐野さんは、優子さんのお誕生日に会った綾ちゃんですよね💞 素敵💞