テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
影猫パーカー@最低週1投稿目標
第六話〜大和の旗〜
「みんな、聞いてくれないか」
崩落した黄稲村の瓦礫の前で、ハクトが静かに声を発した。
「もうここには居られないよ。 確か、ここから北の方角に隣の禍日(マガヒ)村があった….だからそこに行こう。 みんなで一つになるんだ」
「合併……そんなこと、他所者が受け入れてくれるのか」
不安に震えるヤソガの手を、リョウが強く握りしめた。
「やるしかない。これ以上あいつらに、好き勝手やらせるものか!」
不幸中の幸い、黄稲村から禍日村はそこまで遠くなかった。
その日の午後、傷だらけの集団を引き連れて禍日村へと足を踏み入れた。
ヤソガ曰く、以前訪れた際は、この村は柵で囲われてなかったそうだ。
黄稲村が何者かに襲われたことがすでに、ここに伝わっているのだろうか。
黄稲村の一行は門番に話を通し、村長の場所へと案内された。
突然の提案に禍日村の長、サカは目を剥いた。
「合併だと!? 何を馬鹿なことを。我が村には我が村の暮らしがある!」
だが、フウゴがすかさず一歩前に出る。
「一つの村だけで戦えば、次はお前たちの村が皆殺しにされる番だ。あいつらの戦い方は、ただの野蛮な略奪じゃない。戦術的な動きをしていたんだ。柵を設置する程度で防げる相手ではない!」
その言葉の重みと、黄稲村の壊滅という動かぬ事実を前に、禍日村の長はついに額の汗を拭い、首を縦に振った。
「その戦術とやらはよく分からんが。 ……分かった。お前たちの言う危機は本物だ。合併を受け入れよう。だがお前たちの話を聞いている限り、対抗するなら、この先にある「武村(タケムラ)」を仲間に引き入れる他ないだろう。
あそこはこの辺りでは最も人数が多く、物資も豊富だ。何より……海の向こうから来た渡来人を受け入れており、彼らのもたらした最先端の技術や文明が、他よりも遥かに進んでいる」
「それなら全員で行きましょう」ヤソガが力強く言った。
「分かった。なんとか説得しよう」
こうして、黄稲村の生き残りと禍日村の民は一つの大きな集団となり、さらに北に位置する武村を目指して歩き出した。
途中、平野で野営をしつつ、昼間にうっそうとした森を抜け、一行は武村の境界へとたどり着いた。
しかし、開けた視界の先に広がっていたのは、彼らが想像していた豊かな村の姿ではなかった。
「……煙?」
タカが呟いた。遠くに見える武村の敷地から、幾筋もの黒い煙が天に向かって立ち上っている。 風に乗って運ばれてきたのは、強烈な焦げ臭さと、鉄錆の混じった血の匂いだった。
一同の間に緊張が走り、フウゴを先頭に、荒らされた畑を通って恐る恐る村の中心へと進んでいく。
高度な土木技術で作られたはずの立派な高床式の建物は、すべてへし折られ、炭となって激しく燃えさかっていた。地面には、渡来人がもたらしたであろう精巧な土器や道具が粉々に砕け散り、踏みにじられた作物が泥にまみれている。 そこら中に人が倒れている。
「そんな……馬鹿な……っ」
禍日村の長が膝から崩れ落ち、目を見開いた。
「ここは、あの進んだ渡来人の技術がある武村だぞ……! 渡来人を超えるものがいるのか!? 一体……何者なんだ」
あまりの惨状に全員が言葉を失い、立ち尽くしていた、その時だった。
カサカサッ、と崩れた建物の影から音がした。
「誰だ!」
タカが瞬時に木弓を構える。
ボロボロの衣服を纏い、鋭い石の槍を構えた数人の若者たちが、憎悪と恐怖の入り混じった目でこちらを睨みつけながら這い出てくる。
武村の生き残り――残党だった。
「他所者が……! お前たちもあの襲撃者どもの仲間か!」
若頭らしき男が、傷だらけの身体を震わせながら槍の先をフウゴに向ける。
一触即発の空気が流れる中、フウゴは両手をゆっくりと上げ、一歩前に出た。
「違う! 僕たちも、あいつらに村を焼かれたんだ。僕の頬を見てくれ。ハヤテという男に殴られた跡だ」刺激しないようにゆっくりと歩み寄る。
「戦いに来たんじゃない。あいつらを止めるため、これ以上誰も奪われないために、禍日村と手を組んでここへ来た。俺たちは黄稲村の者だ」
「手を組むだと……?」
武村の若頭は、背後にいる禍日村の長の顔を見て、わずかに槍を下げた。しかし、その瞳からは絶望が消えない。
「そうか。それで武村に協力を頼みに来たのか。残念だが遅すぎる……。俺たちの村は終わったんだ。物資も、技術も、すべて奪われ、長も死んだ。もう俺たちには、あいつらと戦う力なんて残っていない!」男 たちは地面に槍を叩きつけ、涙を流す。
その姿に、ヤソガがたまらず一歩前に出て、震 える声を張り上げた。
「俺たちの村も、なんの罪もない女子供の亡骸が転がってた……! 守れなくて、悔しくて、死にたくなるほど情けねえよ! だけど、ここで立ち上がらなきゃ、死んだ奴らはなんだったんだ。
頼むから! ……黙って一緒に戦え!!」
ヤソガの悲痛な訴えに、武村の残党たちがハッとしたように顔を上げた。
若頭の目から、涙があふれ出した。
「大切な家族の死を、友の死を、無駄にはしない。やってやるよ….ここで終われるか!」
若頭がヤソガの手を握り返し、武村の残党たちの心が完全に一つになったその時、焼け野原を見つめていたリョウが、ゆっくりと前に歩み出た。
リョウの瞳には、どこか圧倒的な決意の光が宿っていた。
「……終わらせよう。これ以上、あいつらに好き勝手させない。黄稲村、禍日村、そして武村。村を越えて、みんなで一つになる。
誰も奪われず、誰もが腹いっぱい食えて、弱いものを守る。そんな絶対に崩れない場所を僕たちが作ろう!」
リョウは いつの時代も、弱者が踏み躙られる、その怒りを この残酷な世界へと刻み込んだ。
「これはもう村なんかじゃない、国だ!
この国の名はー大和(ヤマト)ーとする!!」
三つの村の魂が融合し、たった今
大和の国が産声をあげた。
コメント
1件
うわっ、ここで「大和」の国が産声を上げるのか…!三つの村の残党が一つに団結する流れは重みがあって、特にヤソガの「黙って一緒に戦え!!」には胸を打たれました。蛮族の襲撃が戦術的だったというフウゴの分析も後で効いてきそう。古代日本の国造りを思わせる世界観、この先どう展開するのか楽しみです。