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見える景色は、ややもするとしめっぽい。


川の向こうには、田畑が広がっている。


風光明媚とは程遠い。が、不思議と心に響く。この何気ない景色は、陣営にいると思えなかった。


「夢と同じだわ」


ジオンは耳を疑った。


ミヒは、まだ夢を見る――のか。


頬にあたる風が、ジオンの心中を吹き荒らした。


「ミヒ……まだお前……」


「ええ」


「うなされているのか?」


「ええ。とても」


「そうか……」


聞かされ、ジオンは、いたたまれなかった。


何もしてやれないとわかっているだけに、焦れて仕方なかった。


それでも、ミヒは、微笑みを絶やさない。


何かが違うとジオンは気がつく。


「私、思い出したの。あれは、夢じゃない」


笑みは消え、ミヒの眉が一瞬、ぴくりと動いた。


「ミヒ?」


ミヒはジオンの手を握る。


壊してはならない大切なものを扱うように、そっと両手で包みこむ。


そして、ためらいながら頬をよせると呟いた。


「大きな手……この手が……。黒い狼煙が上っていた。空に。私の国の空に」


……知ってしまったのか!


ミヒの言葉に、ジオンは驚かなかった。


この日がくるのが、わかっていたのか。どこかで覚悟ができていたのだろうか。


「だが、どうだ。目の前にいる子は、物怖じせずに私を見る。従者の血しぶきが衣に散り、自分も腕に傷をおっている。剣を振るう私に、追っ手の私に……、花が綺麗だと微笑んだ……」


忘れもしない遠い日を、ジオンは語った。


自分が下した運命の元、ここにいる、あの幼子に向けて――。


「……私に会いに来たんだね?」


ジオンの問いに、ミヒは視線をそらした。


二人がいる足元には、あの日のように、濁った川が流れている。


ジオンの手に、じとりと、汗がにじむ。


ミヒの言葉に、ジオンは驚かなかった。

この日がくるのが、わかっていたのか。どこかで覚悟ができていたのだろうか。


「だが、どうだ。目の前にいる子は、物怖じせずに私を見る。従者の血しぶきが衣に散り、自分も腕に傷をおっている。剣を振るう私に、追っ手の私に……、花が綺麗だと微笑んだ……」


忘れもしない遠い日を、ジオンは語った。


自分が下した運命の元、ここにいる、あの幼子に向けて――。


「……私に会いに来たんだね?」


ジオンの問いに、ミヒは視線をそらした。


二人がいる足元には、あの日のように、濁った川が流れている。


ジオンの手に、じとりと、汗がにじむ。


「すまなかった」


言って、ジオンは惑う。


すまないなどと、言って良いのだろうかと。


ミヒは、本気なのだ。


ジオンは、そのまま押し黙った。


とたんに、ミヒの叫びが飛んできた。


「どうして、私を!!」


初めて見た。


ここまで感情をあらわにするミヒを、ジオンは見たことがなかった。


いや、見ようとしなかった。


屋敷に閉じこめ、愛を注ぐ。


ジオンは満足していた。ミヒも満足していると思い込んでいた。


浅はかだったと、今更ながら思う。


こうして、思い、という感情がある。それを……見ていなかった。


……どうして?


どうして、ミヒを連れ帰ったのか。


問いつめられて、ジオンはたじろがない。


答えはひとつ。

朱(あけ)の花びら

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