遂に水曜日!
本日はノー残業デイで仕事の後は……悠真君とデート!
そう、渋谷の展望台に行くことになっていた。
もう朝から大変!
昨晩、何を着ていくか決めていた。
でも今朝、いざ着替えるとなると……。
ちょっと気合い入れ過ぎかしら?
服を選び直すことになる。
結局、キャラメル色のツインニットにオフホワイトのワイドパンツ、パールグレーの白のノーカラーコート、足元はベージュのショートブーツで落ち着いた。
一応、普段よりさらに30分早起きしていたから、遅刻にはならないけど、危なかったと思う。
会社帰りにデートの予定を入れると、朝からホント、ドキドキだわ。
でも。
大変だけど……嬉しい!
何せメッセージを送り合い、短い時間、通話をしたものの。
対面で会うのは久しぶりだから!
いつもよりウキウキ気分で会社に出勤した。
***
昼休み。
中村先輩、森山さん、岡本くん、私の四人で、社員食堂でランチとなった。すると岡本くんがこんなことを言い出す。
「なんか鈴宮さん、週明けからオーラが変わった気がするんですけど。服とかメイクの感じ、変わっていません?」
「あー、それ、私も思っています! 週末に何かあったのかしらって、思っちゃいましたよ。でも相変わらず猫動画で悶絶しているとか言い出すんです。だから恋愛関係ではないのかなぁと思いつつ。鈴宮先輩、謎過ぎます」
森山さんは岡本くんに同意しつつ、首を傾げている。
「二人とも、私はいつも通りよ。服はほら、本格的に寒くなってきたから、冬ものを着るようになったから。メイクも秋メイクから冬にシフトしただけよ」
そう言って笑うしかない。
そんな私を中村先輩は、何だか期待を込めた目で見ている。
週末を経て私に変化が起きた。
日曜日に中村先輩は私に告白している。
もしや……と思っているとしたら、申し訳なく思ってしまう。
かといって、先輩に興味はありませんよ!みたいな行動はとりにくいし。
やはり社内恋愛は私に向いていない!
そんなことを思いつつも。
絶対に残業にならないよう、予防線を張りながら、午後は仕事をこなした。
ようやく定時のチャイムが鳴る!
今日は友達と会う約束があるからと、チャイムと同時に席を立つ。
さすがにこれだとエレベーターに乗ることができる。
それでも箱の中は満員御礼だけど。
ロビー階に着くと、もう駅までダッシュ。
そして無事、電車に乗り込むことができた。
車内で悠真くんに連絡をいれる。
無事、会社を出て電車に乗れたと伝えると。
「鈴宮さん、お仕事お疲れ様です。
僕も今、渋谷に向かっています。
多分、少し早めに着くから
ウィンドウショッピングしちゃいます」
お腹をだして、甘えるポーズのシュガーの写真も送られてきて、そこには「鈴宮さんに甘えたいニャン」なんて書かれている! シュガーの愛らしさにやられ、悠真くんの言葉に悶絶してしまう。
渋谷が近づくにつれ、電車が混んでくる。
渋谷に着くと、相変わらず、人が多い!
人混みの流れに沿い、移動開始。
待ち合わせの14階に着くと、まずはレストルームでお化粧直し。
水曜日はノー残業デイの会社、今も多いのかな。
女子のレストルームはやはり混んでいる。
定時と同時に会社を飛び出していたので、じっくりメイクを整えた。
「これでいいかな」と独り言を呟き、レストルームを出る。
悠真くんは事前にネットでチケットを購入してくれているという。
忙しいのにデートの手配をしてくれるなんて。
本当、出来た子です、悠真くん!
スマホを取り出し、悠真くんからメッセージが来ているかなと確認しようとすると……。
ふわりと後ろから抱きしめられ、ドキッとなる。
「鈴宮さん、お疲れ様です」
「悠真くん!」
振り返るといきなり額へのキスで、呆気なく、腰が抜けそうになる。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃないです……」
「ではしばらくこうしましょう」
そう言った悠真くんはいきなり私を抱きしめた。
沢山周りに人がいるのに!
それにこんな風に抱きしめられたら、落ち着くどころかドキドキが止まらないっ!
でも……。
いやではない。
……幸せ。
悠真くんは白のVネックのセーターを着ていて、コートは前を開けている。だからその胸にピッタリ顔をつけることができているのだけど……。
鼓動を感じる。
悠真くんの。
ドキドキしている、悠真くんも……。
「今日は、仕事、忙しかったですか?」
「トラブルもなかったし、いつも通りでしたよ」
そんな会話を続け「ではそろそろ行きますか? 予約していた時間になるので」と言われ、離れがたくなっていたけど「はい!」と返事をして体を離す。
その顔を見ると、黒縁の丸眼鏡にマスクと、なんだかいつもと雰囲気が違う。
可愛い系眼鏡男子になっている!
「行きましょう、鈴宮さん」
手をつないで歩き出し、案内されたエレベーターに乗る。
乗り込んだエレベーターからして展望体験がスタートしているようだ。
黒い壁、黒い床、でも天井には映像が投影されている。
エレベーターが動き出すと、天井の映像も動き出す。まるでワープしているような気分になる。「なんだかエレベーターだけでも面白いでしょう?」と悠真くんが耳元で囁く。「はい、今日、初めて来たのですが、驚いています」と答えると、悠真くんが嬉しそうに私の手をぎゅっと握りしめる。
45階に到着すると、今度はエスカレーター。
そこを抜けた先に広がるのは渋谷ギャラリーという展示エリアだ。
「ここは後でゆっくり行きましょう。ドリンクとスナックがついたソファ席を予約してあるので、そこで1時間ほど過ごしてから、ここに戻って来ましょう」
悠真くんが予約してくれたのは、渋谷最高峰のルーフトップバーのソファ席に、シャンパンのミニボトルとスナック一品、渋谷展望台の入場券がセットになったもの。
ソファ席からは東京の高層ビル群とランドマークを一望できるという。
ということで展望台に到着すると……。
「うわあ、すごいですね。渋谷にこんな場所があったなんて!」
「開放的ですよね。夜景も大パノラマで楽しめます」
悠真くんの言う通りで、これは感動してしまう。
「さあ、ルーフトップバーに行きましょう」
手をつないで悠真くんは歩き出す。
悠真くんは手料理とかラーメンとか庶民的なことを好むのに、二人で外出すると、とってもセレブ感溢れる場所に連れて行ってくれる。まだ恋人になる前だったのに、連れて行ってくれたあの映画館。後で知ったが、あれはなんと二人で3万円もするものだった。そして今、案内されたのも……。
これはビックリ!
普通に室内にありそうな立派なソファセットが、この展望エリアに用意されている。目の前にはガラスの塀越しに、夜の街並みが広がって見えた。幹線道路が見え、行き交う車も見えている。
シャンパンとトリュフポテトが用意され、乾杯となる。
う~ん、なんだかセレブ。
こんな眺望を楽しみながらシャンパンを飲めるなんて!
「鈴宮さん、外だから冷えますよね、もう少しこっちへ来てもらえますか」
そう言うと悠真くんは私を抱き寄せる。
すごいオシャレ。
都心の夜景をあの青山悠真くんの胸にもたれながら眺められるなんて。
しかも……。
「このポテトスナック、なんだかめっちゃ高級に感じます。はい、鈴宮さんもどうぞ」
悠真くんが食べさせてくれるのだから!
しかも予約制で一番奥の席に案内されているから、マスクをはずした悠真くんも、人目を気にせずに寛いでいる。
「これで星も綺麗に見えたら最高ですよね。……東京は便利で何でもあるけど、空だけは青森の実家の方が綺麗かなぁ」
悠真くんの言葉に夜空を見上げたその瞬間。
本当に自然に。
悠真くんの唇が、私の唇にふわっと重なっていた。