テラーノベル
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💙side
💛「翔太、ちゃんと音聴いて。怪我するよ」
照に振り遅れを注意された。フォーメーションの移動も間違えて、危うく康二にぶつかるところだった。集中できていないのを見透かされて悔しい。身体が思うように動かなかった。
なんだか頭もぼうっとしている。
昨日起きたことを頭の中でまだ整理できていないし、飲み込めてもいない。それでも昨日のめめは積極的で、俺は抵抗することをしなかった。視界の端に、阿部ちゃんの心配そうな顔が見える。今すぐ泣き出したいような衝動に駆られた。
だめだ、今は仕事中。
泣きたかったら、家に帰って、思い切り泣けばいい。反対側にはめめ。めめも不安にさせたくない。昨日のこと、半分は俺にも責任がある。
考えれば考えるほど脚がもつれて、リズムに遅れたり速すぎたりして、身体がちっとも言うことをきかない。考えるのをやめようと考えてしまうことも駄目みたいだ。
見兼ねたふっかが、照に休憩を申し出て、場の空気が緩んだ。水を買いに行こうと、レッスン室を出ると、自販機の前で阿部ちゃんに遭遇した。今、最も会いたくない相手だった。
💚「翔太、調子悪い?」
💙「そんなことねぇよ」
財布を取り出そうとしたら、阿部ちゃんに冷たい水を渡された。先回りして、買ってくれていたらしい。自分のは既に持っているのが見える。
優しくて、また、好きが増えそうになる。
もうずっと、好きだった。俺は阿部ちゃんが。
だから今週、オフ被りに阿部ちゃんに2人で行こうと水族館に誘われた時、本当に嬉しかったのに……俺、バカだな。
💙「あの…ごめん。水族館、無しになっちゃって…」
💚「あ!!いいよ、全然。翔太の体調の方が大事だろ」
阿部ちゃんは本気で心配そうに俺を見てる。それなのに、俺、何やってんだろ。何やったんだろ。胸がズキズキと痛んだ。
阿部ちゃんの気持ちが俺にあるのかないのかなんてつまらないことを気にして、目の前の手近な好意に応えたなんて、何の言い訳にもならない。
もう、可能性なんてないだろうな、こんな俺なんか…。
涙が出そうになって、慌てて俯いて、阿部ちゃんから貰った水を握りしめ、俺は挨拶もそこそこにレッスン室に駆け戻った。
💚side
翔太の様子が変だった。
やっぱり元気がないし、なんだか泣きそうにも見えた。何か嫌なことでもあったんだろうか。ダンスも珍しく集中力を欠いていた。あんな翔太は珍しい。口では散々文句を言うけど、なんだかんだ、ちゃんと練習は真面目にこなすやつなのに。
ペットボトルの蓋を開け、ぐいっと水を飲み込んだ。冷たい水がもつれた思考をクリアにしてくれる。
水族館デートがポシャったのは本当に残念だったけど、また機会を見て誘おう。目黒も応援してくれている。それなら百人力だ。この気持ちはあまり人には言えないけど、俺は俺のできる範囲のサポートをしようと思った。翔太が何かに悩んでいるのなら、話を聞いてあげられるといいんだけど。そう思った。
コメント
6件
阿部ちゃんは本当に心が綺麗な人ですね🥹
うわーーーーーー🥺🥺