テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(お……いい女発見……)
アッシュ系ブラウンに染められた、前下がりのショートボブ。
シンプルで上質な黒のワンピースを纏っている『典型的な、いい女』。
モデルのような綺麗な顔立ちに、クッキリとした二重瞼の大きい瞳は、物憂げに色付き、スレンダーな体型は、拓人の劣情をくすぐる。
歳は三十前後といったところか。
ほっそりとした首筋が、女の艶を感じる。
(少し様子を見てみるか……)
彼が店内で買い物をするフリをしながら、徐々に女に近付いていくと、短い髪をサラリと揺らし、周囲の様子を伺う仕草を小さく見せた。
すると、動揺しているような面持ちで、拓人の横を通り過ぎる。
(あんなに容姿の優れた女が…………万引きか? それに……あの女……)
女の片手が不自然に握られているのは、プチプライスのメイクコーナーで見ていた化粧品だろう。
(ったく……何をやってるんだか……)
拓人は歩幅を広げて女の後を追い掛けると、店の出入り口で握り拳を作っている手首を掴んだ。
怯えた目で、恐る恐る振り向く女に対して、鋭い眼差しを送る拓人。
間近で見ても綺麗だし、燻っていた情欲が唆られる。
「…………お前、俺が後で買ってやるって言っただろ?」
拓人は、数多くの女が虜になりそうな甘い笑みを湛えた。
──逃亡中の俺の欲望を満たしてもらう女は、この女に決定。
***
見知らぬ男から恋人同然のように声を掛けられ、女は呆気に取られている。
細い手首を掴んだまま、拓人は、プチプライスメイクコーナーへ連れ戻すと、手にしていた小さな長方形のメイク用品を奪い、棚に戻した。
「ちょっ──」
「いいから黙ってろ」
女が文句を言おうとしているのを遮り、彼は、ほんのり赤く染まっている耳朶に囁く。
踵を返し、拓人は混雑し始めた店を出ると、女を近くにあった路地裏へ引き寄せた。