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深夜のオフィスは、蛍光灯の光に冷たく照らされ、静寂が張り詰めていた。
新はデスクに向かい、資料を整理しながらも、机の端に座る奨吾の様子が気になって仕方がなかった。
「もう、こんな時間だよ?」
奨吾の声は柔らかく、どこか無邪気さが残る。
「知っている」
新の返答は短く、そして冷たかった。だが、それが余計に奨吾を挑発しているのを、新は無意識に感じていた。
奨吾は気にする様子もなく、書類の山に手を突っ込み、ふわりと書類を落としてしまう。
「あっ……すみません!」
慌てて拾う奨吾に、新は目を細める。
「……またか」
その一言に奨吾は思わず顔を赤らめ、下を向く。
無言のまま再び作業を始める二人。
しかし、新はふとした拍子に奨吾の肩越しの動きや、手元の仕草を見つめてしまう。
無邪気で天然なその振る舞いは、新の心の奥底にじわりと侵入し、心理的な緊張を生む。
「……これ、どうしたらいいですか?」
奨吾が資料を差し出す。
新は手を伸ばし、軽く資料に触れるだけで距離を保つ。
「自分で考えろ」
しかしその言葉の裏には、微妙に息を詰めるような圧力が含まれていた。
奨吾は戸惑いながらも、なぜか従ってしまう。
深夜のオフィスで、二人だけの世界が出来上がっていく。
時計の針が進むごとに、微妙な心理戦が繰り返される。
新の冷静な視線と短い言葉の端々に、奨吾の心は徐々に侵食される。
その一方で、奨吾の無邪気な振る舞いが、新の理性を少しずつ揺さぶり、支配される側とされる側の境界を曖昧にしていった。
「……また、ここで残業ですか?」
奨吾が小さな声で呟く。
「……ああ」
短く返す新。
だが、わずかに視線を逸らしたその瞬間、奨吾は新の息遣いの変化を敏感に感じ取る。
自分の無意識な振る舞いが、相手の心理を乱している――そのことに、奨吾自身も気づき始める。
書類を片付けるふりをして、奨吾は机の角に手を置き、意図的に視線を交わす。
新は一瞬眉をひそめるが、何も言わずに手を止める。
その沈黙の時間が、二人の間に言葉以上の緊張を生む。
心の奥底で、支配と依存が静かに絡み合う。
深夜の空気の中、互いの距離は微妙に縮まる。
奨吾の無邪気な笑み、天然な動きが、新の理性を崩しつつ、彼自身の冷徹さを際立たせる。
そして、二人の間に漂う静かな緊張感は、もう元に戻ることのない心理的侵食の始まりを告げていた。
蛍光灯の光がゆらぎ、窓の外には夜景が広がる。
オフィスには二人だけ。
言葉少なで、無言の圧力と微妙な距離感が、じわじわと心を支配する。
そして奨吾は、知らぬ間に、新の冷たい視線の中で自分の心が奪われていくことを感じていた――。