テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#バトル
415
35
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
王都の外れにある喫茶店『Cafe Luna』は、昼間はよくある人気の喫茶店だった。
窓から差し込む光が、木のテーブルをやわらかく照らしている。
焼きたてのスコーンの香りと、紅茶の湯気が店内に広がっていた。
その日も、いつものように扉が開く。
「おはよー、モカリア!アルティアー!」
軽い声と一緒に入ってきたのは、花束を抱えた獣人の少女だった。
茶色のふわふわした髪としっぽが、明るく揺れる。
「おはよう、アイリ」
モカリアは笑顔で迎える。
その声は、朝の光みたいに柔らかい。
「今日ちょっと早いね?」
「仕入れ前にちょっと休憩〜っ」
そう言って、アイリはいつもの窓際の席に座った。
「いつものでいい?」
タルティアの声は短い。
アイリはうん、と大きく頷く。
「ミルクティーと……あとスコーン!」
「了解」
タルティアは静かに手を動かす。
カップが置かれる音だけが、軽く響いた。
モカリアはアイリの花束に目をやる。
「今日もたくさんだね〜」
「うん、今日はちょっとだけ特別な日なの」
「特別?」
アイリは少しだけ笑って、花をテーブルに広げる。
「春の終わりって、花屋的にはちょっと忙しいんだよね」
「へぇ……」
モカリアは興味深そうに覗き込む。
その顔は、まるで本当に楽しんでいるみたいだった。
スコーンが運ばれると、アイリはすぐに一口食べる。
「ん〜、やっぱりここのスコーン好きっ」
「そんなに?」
「うん。なんか……落ち着くんだよね」
窓の外では、通りを行く人たちが笑っている。
その全部が、ちゃんと“日常”だった。
アイリはふと、花を一輪だけ手に取る。
「これ、モカリアにあげる!」
「え?」
「今日ちょっと元気なさそうだったから」
モカリアは一瞬だけ固まって、それから笑う。
「そんなことないよ?」
「うっそだ〜わかるもんっ」
アイリは笑いながら、花を差し出す。
小さな黄色い花だった。
光みたいな色。
モカリアはそれを受け取って、胸元にそっと抱く。
「ありがとう」
その声は、少しだけやわらかかった。
タルティアは何も言わず、ただカップを磨いている。
「ねぇ」
アイリが窓の外を見ながら言う。
「最近さ、月綺麗だよね」
「お昼だよ?」
モカリアが笑う。
「わかってるって〜」
アイリも笑う。
そのまま、しばらく外を見ていた。
アイリは、スコーンを口に詰め込み立ち上がる。
「んじゃ、そろそろ行ってくるね」
「仕入れ、気をつけてね」
「うん!」
扉が開くと、光が一瞬だけ強く差し込んだ。
店を出る前に、アイリは振り返る。
「…また夜も来ようかなっ」
その言葉に、モカリアは少しだけ目を細める。
「待ってるよ」
タルティアは何も言わない。
ただ、小さく頷いた。
アイリが去ったあとも、店の中にはまだ花の匂いが残っていた。
モカリアはその花を見つめながら、小さくつぶやく。
「いい子だね」
タルティアは静かに言う。
「……そうだね」
昼のCafe Lunaは、
今日も何事もなく、やさしく時間が流れていた。