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日向 唯(ひむかゆい)、現在二十五歳、A型。
只今新婚生活一ヶ月目で幸せいっぱい!
——の、予定でした。将来有望視されている刑事さんな素敵過ぎる旦那様に恵まれたくせに、予定で終わってる『幸せ』。なんでこうなっちゃうのかなぁ…… 。
事の発端は四ヶ月くらい前に遡る。私は仕事からの帰宅途中、暗い路地で酔っ払いのおじさんに絡まれてしまった。
『や、やめてください!』
そう言うも相手はすごく酔っていて、全然こちらの言う事を聞いてくれない。仕舞には『おじさんといいところ行こうか』とか言い出すしで、私は気持ち悪くなり、反射的に相手を引っ叩いてしまった。
バチンッ!と激しい音が二人の間で響く。だけど百四十五センチの小さい体ではどんなに強く叩いたつもりでいても、悲しい事に全然効果が無かった。むしろ喜ばれてしまい、ひたすら悔しい!
『放して!いやあああ!!』
もうこれは誰かに助けてもらうしか手段は無い。そう咄嗟に判断した私は、大声で叫んだ。正直無意味ではないかとの諦めもあったが、何もしないよりはマシだ。あの時『ああしていれば』と後悔だけはしたくなかった。
だが意外にも『——放しなさい、嫌がってる』と、若い男性の声が即座に聞こえてきた。突然現れた彼は、キッと鋭い刃物の様な視線でおじさんを睨みつける。たったそれだけの事だったのに、すごい気迫があり、おじさんも怯える表情のままそそくさと逃げて行ってくれた。
『あ、ありがとうございます!助かりました、すみません!』
必死に頭を、何度も何度もさげる。
『…… そのままにもできないから』と、困った色の声が返ってきたが、それでもとにかく礼を言った。だが彼は私とは視線も合わせず、少しぶっきらぼうだ。
『私じゃどうにもできなくて…… 怖かった…… 』
ちょっと涙ぐみ、どうしたって声が震える。知らない人の前だ。ここでは泣き出すまいと堪える為、私は俯いてギュッと手に力を入れた。
そんな私を見て彼は、私の頭をそっと撫でてくれる。温かい手が…… 妙に心地いい。
『子供がこんな時間に一人で歩いてはダメだ。家は?ご両親に、遅れるって言ったのか?』
『…… え?あ、私仕事帰りで——』
『こんな時間までバイトって、条例違反じゃないか。何処でやってる』
聞こえる声がちょっと声が怖い。どうやら本気で怒っている様だ。
『せ、正社員ですけど…… 』
『…… は?身分証あるのか?』
(なんでそこまで確認したがるんだ、この人…… )
思った事は口にせず、私は『私これでも二十五歳なんですが…… 』と告げる。するとその言葉を聞いた彼は、すっかり黙り込んでしまった。
(——あぁ、またか)
心に諦めの気持ちが浮かぶ。コレは絶対にいつものパターンだ。
『あ、あの、私全然気にしてません。こんな事いつもなんで飲み屋でも絶対に免許書必要だったりするし、コンビニではお酒買うの面倒だし!ね?だから、気にしないで下さい!』
手をパタパタと動かし、必死に説明する。いつもの事だからと諦めている自分よりも、彼の『まだ信じられないけど、信じるしかない』感の漂う雰囲気をどうにかしてしまいたかった。
『…… あ、いや…… ごめん』
『いえ!だから本当に全然っ』
『家は近いのか?』
『ええ、ここから…… 十分くらいかな』
『送って行く。また変な奴が居ても困るから』
そう言われ、カァーと自分の頬が赤に染まっていくのがはっきりわかる。
(いいのかな?こんなカッコイイ人に送ってもらちゃって…… 。断る?彼が不審者に化けないとも限らないし。——いや!ダメだ、絶対こんなチャンス、二度とない!)
『お、お願いします!!』
近所迷惑かもと思う程大きな声で、私は答えた。