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2 - 【第一章】第2話 妻の心境

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2023年09月27日

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——あの日以来、私はすっかり彼の虜になってしまった。『迷惑だろうが!』って思うくらいに何度もアタックをかけた。完っ全に、どこに出そうが恥ずかしくないレベルの『一目惚れ』ってやつだった。


出会った日から一ヶ月後には、私からの告白で付き合ってもらえる事に。付き合って、もっともっと『彼が好きだー!』って思った私は、その一ヵ月半後には逆プロポーズを決行した。

かなり困った顔をされてしまったが、自分でも引くくらいにしつこく必死に頼んで承諾してもらい、半月くらいの間に親に挨拶をしたりして、速攻で籍を入れた。絶対に、彼を逃したくなかったのだ。周囲には『もっと慎重になれ、早過ぎる』って怒られたりもしたが、私は後悔なんてしてない。


こんな素敵な人他に絶対にいないんだって確信してるから。


——なのに…… 最近はため息ばかりだ。新婚だというのに。というか、付き合った時からも含めて、私達夫婦は一度も旦那様である司(つかさ)さんと、その…… 恥ずかしい事に、抱き合った事がない…… 。


いわゆる“白い結婚状態”なのだ。


毎晩のように熱い夜を過ごしてる友達の話を聞くたびに、正直羨ましいなぁと思ってしまう。

『アンタもでしょー?いいなぁ刑事さんだっけ?体力ありそうだから、すごいでしょ!』

『ま、まぁねぇー』なんて、見栄張って言っちゃうけど、経験がないから実のところどうなのかわからない。



籍を入れ、いわゆるドキドキいっぱいの結婚初夜。『今日やっと結ばれるのね!』って期待して、すごく緊張していた。年相応の行為が出来る事に正直期待もしていた。なーのーにーだ、下着まで可愛い物を買っておいてたのに、彼は私に『おやすみ』ってキスしてくれただけで、別の部屋で寝てしまったのだ。

しないで終わるのは、まぁ疲れているのかもしれない。


(でもさ…… 別の部屋で寝るって何よ)


そう思うも、司さんにも『何か考えがあるのかなー』と起きた事をそのまま受け入れ、相手に文句も言えない気の弱い自分が——少しだけイヤになった。




私は結婚を機に仕事を辞め、生活に慣れるまでは専業主婦に専念する事にした。

掃除も終わり、お昼ご飯を食べるついでに観ていたテレビで『女の人の風呂上りの姿はもう神だね』って言ってる芸能人のコメントを聞き、私は『これだ!』と思った。


(芸能人だってそう思うんだもん、きっと司さんも風呂上がりのうなじとか見たら、私にドキドキしてギュッて、ギューッってしくれるはずだ!)


夕飯の材料を買いに行ったついでに、『もしかしたらあの時はコレがなかったからしなかったのかも』と、恥ずかしいのを我慢してドラックストアで男性用の避妊具を購入した。ついでに保険として、友達が『すごい効くよ!』と褒め称えていた赤マムシドリンクとかってやつも。

レジの人がすごく変な目で私を見てきたが、そんな視線は無いものとした。



夕食時。二人でご飯を食べている時にコップに移した赤マムシドリンクを彼にそっと出す。

「…… 何これ?」と訊かれるも、「最近疲れてそうだから」だとか「試供品の栄養ドリンクだよ」と、適当に誤魔化しながら司さんに飲ませて、自分はその後お風呂入った。


(いよいよか?いよいよ今晩、私もやっと大人の仲間入り⁈)


——なんて、ドキドキしながら全身を丹念に洗い、居間に戻ると…… 彼が居ない。

(あれ?まだお風呂も入ってないのにどうしたんだろう?いつもなら、居間で私がお風呂からあがるまで、テレビとか難しい本読んでたりするのに)

私の部屋を覗くも当然彼は居るはずがなく、ため息をつきながら司さんの部屋のドアをノックしてみると返事があった。


(こっちに居たんだ……)


心に不安がよぎった。これでは『風呂上がりの神がかってる私』をアピール出来ない。

「お風呂空いたよ?」

「わかった」と返事があったが、全然部屋から出て来てくれない。そのままドアの前に居ても開けてはくれなさそうだ。

計画に失敗した私は、肩を落としながら仕方なく、とぼとぼと私室へ戻ったのだった。



一時間くらい経っただろうか。部屋でぼーっと本を読んでいたが、正直飽きてきた。

暇を持て余した私が居間に戻ると、お風呂上りの司さんが台所で必死に何杯も水を飲んでい所に遭遇した。

後ろからこっそり近づき、水を飲んでるってわかりきっているのに『なにしてるのー?』と言いながら背中に抱きつく。

「うわぁ!」と、普段冷静な彼が珍しくすごく驚いてくれて、なんがたとっても嬉しい。


(…… いい匂い。女性だけでなく、男性の風呂上りも神に等しいね!)


自分と同じ香りのはずなのに彼を経由するともっと素敵な香りに感じられる。そのおかげでほんわかとした幸せ気分に全身が満たされて、さっきまでの不安が自分の中から消えていくのがわかる。

司さんが持っていたコップを流しの中に置き、私の頭を撫でてくれた。

「うふふ、大好きー司さんっ」

嬉しい気持ちいっぱいで伝える。

「…… 俺もだよ」

言葉にするのがまだ照れ臭いのか、ちょっと困った顔をされた。

困りながらも、司さんは頬を撫でてくれた。こうやってちゃんと返してくれてすごく嬉しい。頬に触れる事なんて、彼は私の夫なのに滅多にないから。


(もしかしたら、今日こそいける?)


甘い雰囲気の中で私がそう思った時、「——もう寝るから、おやすみ」と私に背を向けて、彼は自分の部屋へそそくさと入って行こうとし始めた。

「え?…… あ…… 」

手を伸ばし追おうかとも思ったが…… 悲し過ぎて、縋る事も出来なかった。


(あーあ、どうしてこうなるのかなぁ…… 。でも嫌われてるって訳じゃないんだし、きっと…… そう、きっと疲れてるだけだ!)


自分にそう言い聞かせ、今日も結局、何事も無く終わったのだった。

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