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情景描写が美しいすぎます! もしかしてアーサー推しですか…?
微睡みかけた瞳に、夕陽が差し込んだ。
軽い(かろい)秋の風がサッと吹き抜け、磯の香りを運ぶ。
ボヤ着いた意識の中、「あ。海が近いのネ。」と思えば、スッカリそれを見る気になって、のそりと首だけを捻り、ウィンドウを覗き込んだ。
しかし、寝ぼけた頭と目には、一段と太陽が眩しく映るらしい。知らないうちに、ガンと殴り飛ばされたような衝撃が走った。思わず、目を閉じる。ズシンと、瞼が重くなる。勿論痛みは無い。ただ、それほどに目を背けたくなるほど眩い輝きだった。
この時既に眠気はなく、ただひたすらに夕焼けを見る事が念頭にあるだけだった。
瞼の裏にオレンジ色が焼き付いている。わたしはこれの正体を正しく暴きたくもあり、同時に恐れも抱いていた。
も一度、恐る恐る瞼を持ち上げれば、焼き付いた朱よりも何倍も濃い、確かな夕暮れの色があった。
あっ、と声が出そうになった。まさしくこれが、待ち望んだ秋晴れである。
国道沿いの母なる海は、空を覆って赤くなっていた。その広大な潮(うしお)は水平線の彼方よりも遠く、遠く。ずっと続いている。
「アーサー、見てよ。奇麗 !なんて、美しいの···」
わたしの呼び掛けに同業者は、うんとか、あーとかだけ言って、あとは無関心を貫いた。カーシェイドを下げながら、冷たく相槌を打つ男の様はキマっていたが、話し相手としては連れない奴だ。
そんな態度だからいつもひとりなのよ、と言おうと思った。しかし、いつもの癇癪に身を任せて、車から放り出されては敵わないから、大人しくした。
しばらく車内には沈黙が続く。相変わらずツンとした態度の男を見遣れば、怒りが募るばかりだが、不思議と気まずいとは思わなかった。寧ろ、何か心地よいとまで思った。
沈みかけた夕日は、いつの間にか海の、水平線のもっと向こうまで落ちていた。周囲は段々と藍色のカーテンに覆われ始め、黄色の街灯がポツポツと灯り始めていた。