「トワのだよ」
その言葉が、頭の中で大きく反響した。
どういうことだ…あの脚が、トワくんのもの?
なんで。そんなはず。
あの日のあと、僕はトワくんとレインでやり取りをしたはずだ。返事だってしっかり返ってきていた。今は、かえってきてないけど…。でも、すくなくとも昨日までは生きていたはずだ。
「今、透真は、『昨日までトワくんと話していたのに』そう思っただろ」
駿に見透かされたように言われ、心臓がどくんと跳ねた。
「残念だけど、それは違う。トワは死んでるし、あのレインを返していたのは俺だ」
「え……」
そういうと、駿はポケットから1台、スマホを取りだした。
それは、いつも駿が使っているものでは無かった。
あのスマホは…
「トワの。なんなら今、そのスマホで何か送ってみ?ここに届くから」
駿の言葉に、僕は言葉を失う。
唯一の可能性だと思っていたトワくんが…死んでいた。
「トワくんも、殺したの……?」
僕はなんとか声を振り絞って尋ねる。
駿はすこしのあいだ黙り込んだあと、
「……殺したよ」
と、俯いて答えた。
「どうして…」
「そんなの、トワが嫌いだったからさ」
駿は吐き捨てるように言って、口を開いた。
かあさんは昔っから、トワしか見ていなかったんだ。2番目に生まれたトワを、心底可愛がっていた。俺がどんなにかあさんに尽くしても、かあさんはトワばかり見ていた。毎日ご飯を作っているのは俺なのに。洗濯だって掃除だって、全部俺がやっているのに。夢だった大学進学も諦めて、亡くなった父さんの分も頑張ろうって、働いて家計を支えるんだって決意までしていたのに。すこしも褒めて貰えなかった。
それどころか、
「そんなの当たり前だろ。大学に行きたいなら、お金は自分で働いて稼ぎなさい。全部1人で、責任もって。かあさんは手伝わないからね。絶対、一銭も出さないからね」
そう言った。そこで初めて、俺はこの先の人生、全部1人で背負わなくちゃいけないのかなって……絶望したよ。
そして、あの日…。透真とカフェで勉強してたとき。トワからレインが来たんだ。
《おかあさんかえってきたよー。お腹すいたよ!ご飯まだ?おかあさんと待ってるよー》
って。それ見たらもう…どうしようもないくらいの怒りが湧いてきて。多分その時から、透真は俺の異変に気づいてただろ?
それで家に帰って、リビングで呑気にテレビを見ていたトワを、後ろからゆっくり近づいてガラスの灰皿で殴って殺した。そこを運悪くリビングに入ってきたかあさんにみられて。何とか弁明しようとしたんだけどさ…。かあさん、きゃあっと叫んでこう言ったんだ。
〝人殺し!〟
……って。きがついたら、逃げるかあさんの背中を追いかけていて。キッチンで逃げ場をなくしたかあさんを殴って殺したんだ。すぐにこう思ったよ。あぁ、俺ついに、やっちまったんだなって。
そしたら外から物音がして、咄嗟に誰だ、って叫んじまった。驚かせたよな、ごめん。
急いで2階へ上がって窓の外を見たら、靴も履かずに逃げる透真の姿が見えたんだ。
…終わったな、と思ったよ。
ついに、家族も親友も失うのかって。
そう思ったら俺、どうしようもないほど死にたくなって。
ロープで首を吊ろうとしたけど……結局無理だった。
…逃げれなかったんだ。自分の罪から。
けど、その後はもうなんか、全部どうでも良くなった。もう失うものないなって。学校行ったら、透真どんな顔するかなって思ったけど…。普通に接してくれて嬉しかったよ。まあ、普通にせざるを得なかったかもしれないけど…。
あ、ちなみに。殺したトワはバラバラにして、山に埋めてきたよ。バレるのも時間の問題だろうな。
これが…俺が犯した罪の全て。
一生逃げることの出来ない罪の全てだ。
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