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「ちょっと、いい加減にしなさいよ。アンタ達」
「聖女さま邪魔しないでよって、こっちも聖女さまか」
「馬鹿にしてんの?」
トワイライトを助けるために、火の中……双子の間に割って入ったが、私が何か言うたびに全部反論してくるのだ。この双子は、本当に嫌だ。
とくにルクスは何か私に恨みでもあるのかと言うぐらい執拗以上に反発してくる。結構嫌われているなあなんて思いつつ、ここで怒っても、大人げないだけだし私は、グッと我慢していた。
「だって、本物の聖女さまっぽいじゃんトワイライトさまは」
と、ルクスはハンッと鼻を鳴らしていった。確かに瞳の色は魔法で何もしていないため純白のままだし、少し魔法が切れかかっているのか、黒髪が店の照明にあたるたびに金色の光を帯びていた。きっと、そういう細かいところを見逃さなかったから気づいたんだろうなと思いつつ、私は、攻略キャラにこうも直接偽物聖女扱いされて気分が悪かった。偽物だったことは私が一番分かっているし、それをわざわざ突きつけて欲しくないのだ。
だが、ルクスは私に色々と言うが、ルフレは私にさほど何も言ってこなかった。勿論、ルクスの言葉に同調したりはするが、自分の意見を言ったりしない。いつもは、私に食ってかかってきて口論になるのに珍しいと。
私は、それがルクスの嫌味より気になって、ぽろっと口に出してしまった。
「ねえ、ルクス。何でアンタ今日静かなの?」
「は? 別に、静かじゃないし」
「いや、だっていつも私に色々言ってくるじゃん」
「いいの! 今日は気分じゃないの!」
と、完全に機嫌を損ねたといった感じにふいっと私から顔を背けてしまった。そういう所は、純粋な子供っぽくていいなあと思うけど、その他はぜんぜんである。そんな弟の変化に気がついたのか、追い打ちをかけるように、ルクスは私に言ってきた。
「前々から思っていたけど、聖女さまは聖女の印である金髪と純白の瞳持ってないじゃん。それで、聖女って可笑しくない?本物の聖女が召喚された今、自分の立場ってものが……」
「私のお姉様を酷く言わないで下さい!」
そう、口を挟んだのはトワイライトだった。トワイライトは私を何故か抱きしめて、ルクスに見せつけるように、彼を睨み付けていた。いつもは可愛い妖精のような彼女の笑顔が、怖い怒りの表情に変わっていて、私は少し吃驚した。
怒りたいのはこっちだったが、それを我慢してたというのに、それ以上にトワイライトは、私が侮辱されたことに関して怒っているようだった。嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気持ちで、それまでもっていたルクスへの怒りも忘れるほどに。
「先ほどから黙って聞いてましたけど、お姉様はお姉様です。私より早く召喚されて、この帝国を守ってきたと聞きました。容姿が違うだけで何故そこまで酷く言うのですか!?」
トワイライトの帝国を守ってきたという言葉には語弊があるし、どこからそんな情報を引っ張り出してきたのか不明だった。私はそこまで何もしていないし、なんならこの間の調査で足を引っ張った。リースがいなかったらきっと食べられて……
そこまで考えて、私はふと何かが繋がるような糸が張ったような感覚におそわれた。
(リースがいなかったら食われて死んでいた……皇帝は、怪物のことを少なからず知っていただろうし、そんな危ない任務にリースを向かわせて……いや、私を同行さええて)
リースは、戦果のある皇太子だ。だから、彼がいればあの調査は問題なかったはずだ。それに、怪物の倒し方さえ分かっていれば、聖女など必要なかった。名目上は、災厄の調査だった為、聖女である私は必要だったのかも知れない。けれど、思えばあの怪物は私を見て襲ってきた。それは偶然かも知れないし、その後怪物の腹の中で聞えた声によると、私が食われていこう死者は出なかったそうだ。負傷者はいたとしても。
ということは、あの怪物は聖女を襲ってくるように、光魔法の強い物を襲ったのではないか・そして、皇帝は其れを知っていて……確かに聖女の魔力は強力だし、簡単に倒せる相手ではないことを知っている筈。だけど、中身は私だったし、簡単に倒せるだろうと。
(もしかして、あの調査ってトワイライトを召喚する準備が整ったから偽物聖女である私を殺すために行かせたって事?)
もしかしたらそうかも知れないという憶測が私の頭の中は今になって飛び交った。それは、非常に残酷なことで信じたくもない事だった。私の妄想かも知れないけれど、騎士達はもしかしたらそれを聞かされていたのかも知れない。だから、生き残った私に、何も聞かされなかったリースが私の為に怪物の中に飛び込んだことで、さらに私へのヘイトが集まったとしたら。
最悪だ。
そんなことを一人で考えていると、上からトワイライトの声がふってきて私は我に返った。
「私のお姉様は、本物の聖女です。私と同じくとてつもない魔力を持っていますし、私に意地悪なんてしたりしません。だから、これ以上お姉様を悪く言うようであれば、もう口を利いてあげません」
と、トワイライトは言ってさらに私を抱きしめた。
ルクスはそんな抱きしめられている私を見ながら、またふーんとつまらなそうな、どうでも良さそうな声を上げた。ルフレは、ポカンとしていて状況が理解できていないようだった。
私はそれどころではなく、先ほどの真偽が知りたかった。でも、きっと誰に聞いても分からないことだろう。ルーメンさんが知っているかどうか。
トワイライトは、私の額に自らの額を当てて大丈夫ですから、と口にする。
「私は、お姉様の味方です」
「うん、ありがとう。ほんと、少しでもそうやっていってくれる人がいれば私は大丈夫だから」
もう慣れたし、何ては言えなかったけど。
元から、召喚されてからあまりいい思いはしなかった。勿論、私自身が、自分が偽物聖女って分かっているからこそ、どうしようもないんだろうなっていう気持ちの中ここで過ごしてきた。でも、私が思った以上に、厳しくて、伝説の聖女と違う容姿の私に対する差別の目がなくなることはなかった。分かっていたし、知っていた。
けれど、トワイライトと一緒にいる内に、またそれが大きくなっていったら……私は、耐えられるだろうか。リュシオルは変わったね。と言ってくれたけど、根本的なところは変わっていないから、中学時代のトラウマが呼び起こされるかも知れない。
どういう理由で、本物のトワイライトは闇に堕ちていったんだろう。もし、同じような思いをして堕ちていったとすれば、私は本当に悪役になってしまうのではないか。
不安でしかなった。考えても仕方のないことだけど。
そう、一人で考えていると、店のベルがなり、お待たせしました。と荷物を取りに行ってくれていたアルバが戻ってきた。彼女の手には頼んだ荷物が抱えられており、私はほっと胸をなで下ろした。結構に買った奴だから、埃を被っている物だと思っていたが、リュシオルがちゃんと管理してくれているようだった。後で感謝をしないとと思いつつ、私はトワイライトに一旦離してもらいアルバから荷物を受け取った。
「はい、どうせ、アンタ達には不釣り合いだろうけど」
と、私はルクスに言われた言葉をそっくりそのまま返して、双子にそれぞれプレゼントを渡した。ルクスは不満、怒り、といった感情が完全に表に出てきているようで素直に受け取ってくれなかったが、ルフレの方はすんなり受け取ってくれた。この双子は、出会った時と比べて大分差が出てきたなあと思う。差というか個性。ゲームで見たときは、どっちがどっちか分からなかったけど、こうして関わってみるともうしっかりと区別がつく。
「開けていい?」
「どうぞ」
ルフレが、珍しく私に聞いてきたため、私はさっきと打って変わって優しい笑顔で、彼に対して応えた。彼は、大きなリボンをほどきながら、本当に小さな子供プレゼントをもらったときのように目を輝かせていた。プレゼントを開け終わると、双子は互いに顔を合わせた後、私の方を見た。その表情からなんで? といったクエスチョンマークが頭に浮かんでいるのが見え、私は少し笑ってしまう。きっと彼らは同じものをもらえるとばかり思っていたのだろう。だが、私はあえて違う物をプレゼントした。理由は簡単だ。彼らは全く違うから。
ルクスにあげたのは魔力蓄積機。高火力の魔法を出せる彼だが、すぐに魔力が尽きてしまうことが前に会ったとき難点だと思った。コスパが悪いというか、魔力がなくなったとき、倒れてしまうだろうと思って、これに少しずつ魔力をためていればもしもの時でも安心だと思ったからだ。
ルフレにあげたのは、少しの魔力で高威力のでる弓だ。ルクスと違って彼は剣術や弓になれていたし、魔力がルクスより少ないことを気にしていたため、これなら少しはルクスと肩を並べられるようになるんじゃないかと思った。凄い優れものだし、ルクスに買ったものよりかは少し値段は高かったけど、それは秘密だ。
受け取った二人は、やはり疑問、不思議といった表情を浮べるばかりで口が動かないようだった。
「もしかしたら、もう持ってるかも知れないけど……」
「ううん、これ持ってない」
「僕も、持ってない」
と、二人はようやく開けるようになった口を必死に動かしてそう言った。その顔からは、プレゼントをもらって純粋に嬉しいと言った可愛らしい感情が目に見えるようで。私は少し満足気味に笑った。
とくにルフレなんかは、私の意図を理解したように頬を緩めて笑っていたので、彼にはぴったりなプレゼントだったんだろう。
(まあ、凄く悩んで買ったから、これで嫌とか言われたら心折れたわ……)
攻略キャラにプレゼントを贈るなんてことしてこなかったから、凄く悩んだ。でも、この二人にあげたのは、初めにあったとき色々伯爵家にお世話になったし、なによりそれ以外で関わる事がないからだ。好感度を上げるという下心あって渡しているため少し良心が痛むが、まあ、生き残るためだし仕方がない。乙女ゲームってそういうものよ。
そう思いつつ、ピコンと久しぶりに聞いたあの機械音と共に、彼らの好感度が5上昇した。