校門を出て、通い慣れた帰り道。
イヤホンは片耳だけ。
いつも聴いてるプレイリストを流してるけど、頭には入ってこない。
人混みを避けて歩いてると、前から来た子と肩が少しぶつかった。
「……あ」
向こうもこっちも、何も言わずにすれ違っていく。
(別に謝ってほしかったわけじゃない)
でもなんとなく、
自分が世界の中にいないみたいな気がした。
⸻
踏切に差し掛かる。
遮断機が下りて、向こう側に見覚えのある人影がいた。
制服のシャツの感じ、あの無駄に長い前髪――
(……あいつ?)
遠すぎて顔は見えない。
けど、あの背中の感じ、たぶん俺だ。
目が合いそうになって、すぐにそらした。
別に悪いことしてるわけじゃないのに。
⸻
電車が通り過ぎて、遮断機が上がる。
反射的にそっちを見ると、もうその姿はなかった。
(……ま、いっか)
胸の中に、ちいさな波紋がひとつだけ残った。
⸻
家に帰り着くころには、
イヤホンのバッテリーも切れていて、
玄関の鍵を開けながら、
ふと、さっきの“たぶんあいつ”が何してたのか、
ちょっとだけ気になった。
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