テラーノベル
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──その後、当然のことながら、金原商店勢は、蕎麦をつまみに、酒が進み、盛り上がった。
床に転がり、べろべろになっている一同に、ヤスヨとキクは唖然としている。
「ああ、いつものことだから、放っとけばいい。お前達も、さっさと、休みなさい」
金原は、頃合いを見て、ヤスヨとキクに声をかけ、腰を上げた。
もう、休むのだろうと察した櫻子は、寝間の支度にと、その後を追うが、台所の板の間隅で眠っているお玉に気がついた。
このままでは、風邪をひいてしまうと、櫻子は、お玉の事をヤスヨに頼み自分の部屋へ行ってしまった金原を慌てて追った。
「なにも、そんなに必死に着いてくることは、ないだろう?床の用意ぐらい、自分でできる」
金原を養生させていた客間は、そのまま、金原の仕事部屋兼寝室になっていた。
言葉通り、金原は、手際よく座卓を部屋の隅に運ぶと、押入れを開け、布団を二組取り出した。
「どうした?」
金原の問いかけに、櫻子は、返事が出来なかった。
あれ以来、櫻子は、金原とこの部屋で共に休んでいる。
金原の看病の為に添い寝していたことが、いつの間にか、そのまま、ずるずると続き、しかも、金原は櫻子の布団へ必ず潜り込んで来ると、腰の伊達巻きに手をかけ、あっという間に組敷しいてくれた。
結局、一組の布団で休むことになるのが、櫻子には、色々と恥ずかしさ満載だったのだ。
「……そもそも、布団も二組必要なのか、だなぁ」
さらに、こうして、金原は櫻子をからかってくれる。
「あ、あの、お寝間着の用意を……」
精一杯、平静を保とうする櫻子の様子に、金原は、してやったりとニンマリする。
これも、何時ものことだった。
なんとなく、ぎこちなさはあるものの、二人の関係は、確実に変わりつつあった。すべては、金原の想いのお陰なのかもしれないが、櫻子にとっては、まだまだ、わからないことが多かった。
それを、尋ねてもよいものかと、戸惑うことも正直あった。が、同時に、きっと、時が来れば話してくれるだろうと、漠然とではあるが、確信のようなものも、櫻子の胸の内で芽生えていた。
「……ところで、気に入った物はあったか?」
恥ずかしさから、緊張している櫻子を解そうとしてか、金原が、床板に置かれてある風呂敷包みを見た。
中身は、圭助が手配した反物なのだが、そういえば、と、櫻子は、気がついた。珠子の話をしていて、婚礼衣裳となる反物に目を通していなかった。
「あ、あの、それが、珠子さんのことを話していて、結局……まだ、見ていないんです」
「……珠子の……」
金原が、どこまで心配性なのかと、呆れ口調で言う。
さすがに、実際のことは、言えぬと、櫻子は、口ごもりつつも、
「……珠子さん、ずっとハリソンさんの所にいるつもりなのでしょうか?」
気になっていた事を、金原に尋ねていた。
「ああ、そこなんだ、あの珠子さん、だからなぁ。どうなることやら……」
言って、金原は、胡座をかくと、櫻子を手招きした。
呼ばれ、側に腰を下ろした櫻子へ、金原は、
「それもあって、義父《おとう》さんが、横浜へ一緒に行ったんだろう。連れ戻す……ことは、取りあえずなかろうが……先々の事を話すつもりじゃないのか?」
「お父様が……」
櫻子は、呟きつつ、ふと、お浜達の話を思い出していた。
と──。
ガタガタと続き間の襖が揺れた。
「なっ?!じ、地震かっ?!」
金原は、とっさに櫻子を抱き締める。
櫻子も、恐怖から、金原へしがみついた。
しかし、襖は、更にガタガタ揺れ続ける。
「櫻子!縁側から庭へ!」
と、金原が櫻子を庇いながら、逃げようとしたとたん……。
「押すなっ!」
「あたしゃー、押してなんかないよっ!」
言い争いと共に、襖が、バタンと外れ、お浜と龍が、転がり込んで来た。
それを見た金原は、鬼の形相で、
「また、てめぇーら、覗き見してたのかっ!!」
と、外れた襖の上に、転がり込んでいるお浜と龍を怒鳴り付けた。
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