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1,983
#宵待ち亭
#夢
「いや、いや、社長、布団はやっぱり、二組ないとぉ。なあ、お浜!」
やや、呂律が回っていない口調で、龍が言う。
「うっさいよぉー、龍!あたしにゃー、八っつさんがいるんだよ!あんたとなんか、寝れないよっ!」
「はぁ?!お浜、俺は、櫻子ちゃん一筋なんだ。っつーことは、布団は二組だろうがぁ!お前、酔っぱらってるだろ?!」
「なんだってぇ?!このお浜姐さんが、酒に飲まれたとぉ?!」
完全に、出来上がっているお浜は、転がりあっている龍の胸ぐらを掴かもうと体を動かすが、勢いあまって、足に力が入った。
ぶすっと、襖が、破れる音がして、お浜の右足が、襖に大きな穴を開けていた。
「お浜、何、してんだっ!」
龍が、襖の破れに気がついて、お浜を払いのけ、起き上がったが、当然、また、ぶすっと襖の破れる音がする。
立ち上がった龍の両足が、襖に穴を開けている。それに、気づいた龍は、やっちまったと、固まった。
ついで、龍に、転がされる形になった、お浜も、尻餅をついて、これまた、襖に穴を開けしまい……。
「……旦那様……」
金原の胸にしがみついていた櫻子は、散々たる襖を見て、金原を伺った。
「……表具屋を呼ばねばならんな……。ではなくてっ!!お前ら!結局、何がしたいんだっ!!」
「な、何って……何って?お浜?」
金原の怒りをまともに受けた龍は、お浜を見る。
「そりや、櫻子ちゃんが、心配だからだよ。キヨシが、無茶苦茶やりやがるかもしれないだろ?」
「おお、そうだな、お浜。櫻子ちゃん、守ってやんなきゃなぁ」
「だからっっ!」
更に、金原は苛立った。
酔っぱらいの戯言ではあるが、毎度の覗き見。そして、金原を獣《けだもの》扱いした挙げ句、襖まで、使い物にならないようにしてくれた。
「お前ら!俺が、何をしたっていうんだ?!言ってみろっ!」
金原は、酔っぱらい二人を、これでもかと怒鳴り付ける。
「な、なんだよー怒鳴ることないだろー!キヨシ!」
「そうだー!社長、酷いぞぉ!それに、ほれ!櫻子ちゃんに抱きついてるじゃねぇか!」
お浜と龍の勢いは止まらない。続く、酔っぱらいの戯言に、話にならんと、金原も腹に据えかねるを越え、諦めたのか……、
「どうやら、見たところ、お前らは、飲み足りないようだな……」
仕方なしと、顔をしかめる。
「中途半端に酔っぱらっているのがいけない。このままでは、更に何をやらかすか……。とことん、二人を潰しておくべきだろう」
諦め混じりの独り言のような事を金原は櫻子へ言うと、先に休めと、言い残し、すっくと立ち上がる。
「よしっ!なんでもいい!お浜!龍!飲み直すぞっ!」
金原の勢いに、お浜と龍は、ポカンとした。
「酒だ!酒!行くぞっ!」
すたすたと、お浜と龍の側を通り越し、続き間から、奥の廊下へ出た金原は、ついて来ない二人へ、早くしろと、怒鳴りつける。
何のことやらと、お浜も龍もぼっとしていたが、酒という言葉に反応し……。
「社長!そうこなくっちゃー!」
「キヨシ!あんたも、飲み足りなかったんだねっ!」
などと、弾けながら、ぶすぶすと、襖に、穴を開けつつ、金原の後を嬉しげに追った。
「結局……酒か……」
金原は、飲むぞ、飲むぞと、張り切っている、お浜と龍の姿に、悪態をついた。
わいわいと、皆が出ていった後、取り残された櫻子は、穴だらけになった、襖を壁に立て掛ける。
「……これでは、使い物に当然ならないわ。表具屋さんに直してもらわないと……」
しげしげと、襖を眺めながら、困ったことだと、櫻子は、ため息をつく。
結局、金原は、朝になっても部屋へ戻って来なかった。朝餉の準備をと、櫻子が、台所に向かうと、案の定、金原、お浜、龍の三人が、悶絶状態で、板間に転がっていた。
「ああ、櫻子さん、お早うございます。昨夜は、なぜか、盛り上がりましてねぇ」
珠子の騒動の後、柳原の店に戻らず、ここに残っていた八代が、平然と答えた。
八代の口振りからすると、床に転がり、二日酔いと戦っている一同と一緒に、酒盛りに参加していたはずなのだが、一人、何事もない様《さま》だった。そして、顔を洗ってくると、外の井戸へ向かって行った。
そうこうするうち、ヤスヨとキクもやって来て、繰り広げられている様子に驚きの声をあげる。
「あ、あの、朝餉の準備を、取りあえず……」
どうしたら良いのか分からない櫻子は、ヤスヨとキクに言うが、
「櫻子さん、こりゃ、ダメだろ。作っても、食べられないって。白湯の用意でもした方がいいんじゃないのかい?」
ヤスヨの呆れ口調に、キクも、頷いた。
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