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「ふざけんな雪夜テメェ!」
「俺らはゲームのキャラか何かかよ!?」
当然、火に油を注ぐ結果となる。最早冷静な話し合い等、出来そうもない。
「別にふざけてなどいないよ。君達の事を思っての配慮なのだが、気に入らなかったかい?」
しかしどうだろう。彼には全く意に介さない処か、動じる素振りも無い。いきり立つ二人とは余りに対照的だ。
「それに――私はもう狂座の『雪夜』ではないのだよ。私は『ネオ・ジェネシス』創主、コード『エンペラー』――『ユキヤ』。次からはそう称えたまえ。同じ『アルカナ』でも“序列”は在るのだよ、圧倒的に」
それは二人の意向等、全くの無視。既に『ネオ・ジェネシス』移行後の話にまで勝手に進めている。
大アルカナ『EMPEROR』――彼は『皇帝』を自ら名乗った。『ネオ・ジェネシス』は皇帝を頂点とする組織。先程の者が呟いた『エンペラー』という言葉は、彼の事を指していたのだ。
「何が『エンペラー』だ、ダセェ……。冗談じゃねぇな」
その全てを時雨は一蹴する。つまり『ネオ・ジェネシス』側への誘いは『NO』だ。最初から選択肢に含まれていない。
「お前とは話をしても無駄だという事はよく分かった」
幸人も当然の答だ。
「それによ……狂座を抜けた時点で、アンタは最初から抹殺対象なんだよ。自分からマヌケにのこのこ出向いて来たのは丁度いいや。此所で終わらせて万事解決にしてやるよ」
そして時雨は臨戦態勢へと移行する。
最初こそ突然の邂逅に戸惑っていた時雨だが、考えればこの場は好都合だ。
『ネオ・ジェネシス』のトップが崩れれば、必然的に組織は瓦解する。どの道彼を倒す事は、遅かれ早かれの違いなのだから、その場は早い方がいい。
これ以上の話し合いが無意味な以上、当然の戦闘選択だった。
「あれ? 私は闘いに来たつもりではないのだが……。それに、闘えるのかい――この私と?」
彼――『エンペラー』は時雨の戦闘意向に意外そう。
彼が戦闘に来た訳ではないのは、丸腰な出で立ちからも明らかだった。
「何時までも上から目線で見下してんじゃねーぞ」
それでもその余裕の顕れが、時雨の勘に障った。
「おい……」
今にも襲い掛からんとする時雨だったが、そっと隣の幸人へと声を掛ける。
「二人同時に行くぞ。分かってんな、この意味が? 正々堂々とか卑怯とかぬかすんじゃねぇぞ、アイツ相手じゃ――殺られるぞ確実に」
意外にもそれは共闘の打ち合わせ。それ程の危機感及び――強大な相手との敵対を意味していた。
「フン……」
だが幸人は不服なのか心外なのか、その申し出を鼻で笑うが――
「最初っからそのつもりだ!」
幸人も同時に攻める腹積もりだったのだ。言いながら眼鏡を外し、その真の力を解放する。
黒から銀へ――『雫』へと。
「一瞬で決めるぞ」
時雨も同時にコンタクトを外し――蒼へと。
その解放の余波で辺りの空気が一瞬で震撼した。
「悠莉離れてろ!」
「う、うん!」
二人の本気を見て取った悠莉が、二人の間から大幅に距離を取った。巻き添えを食わない為に。
離れながら悠莉は思う。この二人が共闘すれば、誰だろうが相手にならないだろう事を。
それでも尚、あの彼の――『エンペラー』の余裕の表情は一抹の不安を残した。
「特異点の二人が共闘か……うん、賢明な判断だね」
『エンペラー』は二人の本気、そして作戦を褒め称えた。
「第二マックスオーバーまで到達した君達二人の成長振りは、私としても感慨深いものがあるよ。しかし……たかだか二人掛かりでこの私を倒せると思っているのなら、少しばかり思い上がりにも程があるかな」
しかし彼は二人を持ち上げておいて落とす。この自信の程は何処からくるのだろうか。確かにかつてはSS級以上の存在であった事を差し引いてもだ。
状況は二対一。一対一なら彼等に勝ち目は無いだろうが、二人同時なら向こうの不利は否めない筈。
「なら余裕かましたまま死ねや!」
それは時雨も分かっている。分かっているからこそ、不本意ながら雫との共闘を余儀無くしたのだ。
同時なら勝てると勝算があってこその。
“ブラッディ・ブースト”
先に動いたのは時雨だ。その両手には赤い血球が。だがそれは攻撃へ――ではなく。
対する雫の両手からは電光が発したかと思うと、その掌からは氷の“何か”が形成されていく。
「――っ!?」
悠莉とジュウベエは思わず目を疑った。今まで見た事もない。
時雨の赤い血球は雫の両手に同化していき、形成される氷は無色透明から赤へと――
“時雨×雫――コールドツインカム・ブラッディ・ワイバーン ~双凍血塊飛竜”
「なっ――何じゃありゃぁ!?」
「赤い……ドラゴン?」
ジュウベエも悠莉も、その光景に思わず声を上げた。
時雨と雫が発現したもの――それは血のように赤い、二つの頭を持つ氷の緋竜。
双頭の竜がまるで生きているかのように蠢き、二人の周りを渦巻いている。
「ホウ……“融合異能”か。見事な息の合いようだね」
その光景を目の当たりにしたコード『エンペラー』は、讃えるよう呟いた。
「君達の特異能は性質上、極めて近しいから可能とはいえ、中々どうして――やるものだね」
しかしどうだろう。それでも尚感じられる、彼の余裕の顕れは。
「だからよ……その上から目線、いい加減にしろや!」
それが特に時雨の癇に障った。
「いくらアンタでも、この二つの特異能の前では絶対防げねぇ!」
水と氷――二つの特異能が合わさった時の推定破壊力は、増幅作用により個人で繰り出す時の凡そ五倍にも跳ね上がる。
時雨や雫がプライドを顧みる事無く、協同したのはこの為だ。
“これなら確実に倒せる”――否、これ以外は恐らく通用しないだろうと。
絶対の自信があるからこそ尚更、危機感に乏しい彼の態度が気に食わないのだ。
「――喰らい尽くせ」
雫も同感だ。彼の号令の下、双頭の緋竜は捕食対象をエンペラーへと向けるそれは、まさに蛇に睨まれた蛙の構図。それ程圧倒的な差だ。
そして緋竜は――螺旋状に渦巻きながら、猛烈な勢いでエンペラーへと襲い掛かっていた。