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34話 今月の紙芝居ニュース(世界はゆるく滅びつつある)
夜
焚き火がぱちりと小さく鳴る
ふっくらは丸い体を沈めて座り
短い脚を投げ出している
腹がふよんと前に出て
火の光をやわらかく映していた
琶が紙芝居の枠を立てる
大きな体
長い首
重なった鱗
畳まれた翼の影が
ふっくらと焚き火を同時に包む
ふっくら
「ねぇ琶、今月は平和?」
琶
「おまえ基準なら平和だ」
ふっくら
「わたし基準だと何でも平和になっちゃうよ!?
もっと厳密に教えてよ!」
琶
「では……厳密に“平和ではない”」
ふっくら
「どっちだよ!!」
(丸が震える)
琶は一枚目をめくる
その絵には
半分だけ残った街が描かれていた
建物が欠け
道が途切れ
遠くに影が立っている
ふっくら
「えっ!? 滅んでるじゃん!?
全然平和じゃないよ!?」
琶
「おまえの生活には影響しない」
ふっくら
「それ読者が一番思ってるよ!」
(読者も巻き添え)
琶は次をめくる
二枚目
大地に裂け目が入っている絵
そこから
なにか煙のような“色のないもの”が漂っていた
ふっくら
「……これ……こわいやつだよね……?」
琶
「気にするな。
読者も気にするな」
ふっくら
「読者にまで言うの!?
巻き込みすぎじゃない!?」
琶
「読者は知る必要がない」
ふっくら
「わたしもだよね!?
わたしも知らないほうがいいやつだよね!?」
琶は三枚目をめくる
そこには
なぜか勇者がひとり立っていた
しかし
顔がぼやけ
装備が半分消えかけている
ふっくら
「……勇者、壊れてない?」
琶
「壊れていない。
“足りなくなっている”だけだ」
ふっくら
「なにそれ!?
なにが足りなくなってるの!?
顔!? 魂!? 人として必要な何か!?!?」
琶
「すべてだ」
(淡々)
ふっくら
「全部ーー!?!?」
琶は最後の紙をめくる
そこには
真っ白ではない
墨染めの影のような模様だけが
描かれていた
ふっくら
「……これ……なんの絵……?」
琶
「“残っていくもの”だ」
ふっくら
「えっ……えっ……なにが……?」
琶
「説明しても理解できない」
ふっくら
「言い方ぁ!!
読者に謝って!!
読者もわからないよ!!!」
琶は紙芝居を閉じ
さらに続けるようにしゃべった
「世界は滅びている最中だ。
ゆっくり、気づかれないように」
ふっくら
「え、世界が滅んでるって今サラッと言った!?
そんな話“先に言うべきトップニュース”じゃない!!?」
琶
「ふっくらの生活には影響しない」
(また言う)
ふっくら
「読者は!?
読者に影響する!?」
琶
「読者も……
たぶん、今のところは影響しない」
焚き火がふっとゆらぎ
影が大きく伸びた
一瞬だけ
紙芝居の後ろに
絵ではない“何かの気配”が動いた気がした
ふっくらは気づかず
丸い体をぽよっと揺らす
「……まぁ……生きてるし……
明日も起きるし……
ごはんも食べるし……
いいのかな……?」
琶はふっくらの頭を軽くつつく
「その調子だ。
おまえはそれでいい」
そして
読者へ視線を向けたように
ほんの一瞬だけ目を細める
「……おまえもな」
焚き火がまた揺れた
世界はゆるく
確実に
滅びつつある