テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『天の声:本日は「命懸けの逃走劇」と「アホみたいな日常」が同時進行するため、いつものサクラ視点やカエデ視点はお休みして、神の視点(第三者カメラ)でお送りします。読者の皆様はポップコーンをご用意ください』
──数分前、奇跡のような親友との(間接的な)再会を果たしたカエデたち。
しかし現在、彼女たちは巨大な黒竜(辰夫)と共に、命懸けの逃走劇を繰り広げていた。
「感動の余韻はどこ!? ていうか靴下ってなに!?」
ツバキが辰夫の背中で叫ぶ。
「サクラぁぁ! 生きてて嬉しいけど、あんたのせいでこっちは死にそうだよぉぉ!!」
続けてカエデが叫んだ。
そんな彼女の悲鳴など知る由もなく、
遠く離れた王城の一室では──。
*
悲しいピアノの音色が部屋に満ちていく。
ポロン……ポロンポロンポロン……♪
サクラの指が鍵盤の上をゆっくりと、
しかし確かな思いを込めて動く。
その姿は、まるで遠い記憶の中を歩むかのようだった。
ピアノを奏でる彼女の瞳に、懐かしさと深い悲しみが宿る。
緑豊かな丘陵、澄み切った青い空、そして仲間たちと過ごした日々──。
ポロン……ポロンポロンポロン……♪
「……悲しい音色ですね……」
辰美が静かに部屋に入ってくる。
サクラは演奏を続けながら、儚げな微笑みを浮かべて答えた。
「辰美……聞こえていたのね。この曲は……私の故郷の歌なの」
その声には、懐かしさと共に深い喪失感が滲んでいた。
「そうですか……故郷の……」
辰美は静かに頷くと目を閉じた。
サクラは目を閉じ、深呼吸をする。
そして、急に指の動きを加速させた。
ポロポロポロン!! タタタターン!!♪
(な、なんという超絶技巧……!
不協和音スレスレの旋律……!)
辰美は目を見開いた。
黒鍵ばかりを執拗に叩くその異質な運指に、
圧倒的なまでの“情念”を感じ取る。
「この曲は……私たちみんなで歌った思い出の歌。
楽しかった日々を、家族を……大切な仲間たちを……
思い出すの」
サクラの指が残像を描きながら、鍵盤を叩く。
まるで失われた何かを、必死に拾い集めるかのように。
(サクラさん……まだ左足だけ裸足だ。
まだ靴下が見つからないんだ……!
片足を失った悲しみを……
この旋律に乗せているのですね……!)
辰美は、見当違いの感動で胸を熱くしていた。
そして、サクラはピアノに合わせて歌い始めた。
「ねこ……ふんじゃった……♪」
「え? なんて?」
辰美の感動が、一瞬で迷子になった。
*
──その頃の辰夫とカエデ、ツバキ、ローザ。
轟音が大地を揺るがす中、
辰夫とカエデたちは窮地に立たされていた。
「いたぞー! 辰夫さんだー! 捕まえろー!」
「頼む辰夫さん! サクラ様の左の靴下(夏用)がどこか教えてくれぇぇ!」
魔王軍の悲痛な叫びが耳を劈く。
無数の魔物たちが、血走った目で四方八方から押し寄せてくる。
「タンスの三段目に無いなら知らん!!」
辰夫の鋭い眼光が周囲を見渡す。
「ちょっと待って!?
なんであんたたち『靴下の場所』で命懸けの戦争してんの!?」
ツバキが恐怖と混乱で叫んだ。
「ツバキ!! ローザさん! どうしよう!?」
「いいえ! これもまた神の与えたもうた試練!」
ローザが絶望的な状況下でも目を輝かせ、
分厚い『カメリア聖典』を開いてペンを構えた。
「聖女様! 今こそ圧倒的な光で、
この靴下探索網を消し飛ばしてください!」
「だから無理だってばぁぁぁぁ!!」
ツバキが左目を押さえて叫ぶ。
辰夫は迫り来る敵を睨みつけ、決死の覚悟で叫ぶ。
「我が敵を引き付ける! その隙に──」
だが、その言葉は途中で遮られた。
巨大な岩が、魔王軍の投石機から空高く打ち上げられ、
降ってきたのだ。
「みんな! 伏せて!」
カエデの叫び声が響く。
彼女は素早く身を翻し、手にした石(ウィルソン)を迷いなく放つ。
すかさずローザが、ツバキの頭を両手でガシッと掴んだ。
「いざ! 首の骨が鳴るほどの!
神・角・度(フェイス・アングル)ッ!」
ローザがツバキの顔を無理やり真上へ向け、
強制的にビーム(両目)を発射させる。
「んぐッ!? ゴキッて言った!?
首からゴキッて──」
んビーーー♡
「──前が見えねぇえええあ!?」
ツバキがただただうるさい。
石とビームは空気を切り裂き、巨大な岩に激突する。
轟音と共に、岩は粉々に砕け散った。
一瞬の静寂──。
*
──同時刻。サクラサイド
「……ふふ……この曲はね。
私のいた世界なら誰でも子供の頃から弾けるのよ……」
「子供の頃から誰でもこの超絶技巧を!?
恐ろしい世界ですね……」
「ふふ。この部分だけね……」
サクラは寂しそうな表情を浮かべた。
そしてサクラは再びピアノに合わせて歌い始めた。
「ねこ……ふんじゃった……♪」
「だからなんて!?」
辰美が真顔でツッコんだ。
*
──再び辰夫サイド
「な、何てことだ……
カエデ、ツバキ、そしてローザ……
お、お前たちはいったい……?」
粉々になった岩を見て辰夫は目を見開く。
カエデは息を切らしながら叫ぶ。
「まだよ!」
彼女は地面に転がる岩の破片を拾い上げ、
次々と飛来する魔物めがけて投げ始める。
バキッ! ゴシッ! ドガァン!
「す、すごいな!? カエデ!」
ツバキは驚きの声を上げる。
ローザは飛んでくる矢を『カメリア聖典(ハードカバー)』でカン!カン!と弾き落としながら、一心不乱にメモを取っている。
「『勇者の投石、魔を穿つ』……ッ! 素晴らしい!」
「ローザの本て武器防具なの!?
あと、前から思ってたけど、その身のこなし……
お前、実はめちゃくちゃ強いだろ!?」
ツバキほんとうるせーなこいつ。
しかし、敵の数は尽きることを知らない。
「ヒヒヒ、もう逃げ場はないぞ。
辰夫さーん、悪く思わないでくださいよー?」
魔王軍のリーダー(オーク)が、巨大な斧を振りかざしながら不気味に笑う。
その目には、大粒の涙が浮かんでいた。
「俺たちだって……靴下見つけないとサクラ様に粘着パワハラされるんでねぇ……!小一時間マウント取られ続ける気持ち……辰夫さんなら分かるでしょう!?……妻と子が待ってるんだよォォ!」
「我が粘着された最高記録は18時間だ!甘えるな!!
途中でサクラ殿は寝ながらキレてた!ホント怖かった!
……同情するが、我が捕まっても同じ運命だ!!
みんな、我の背中に乗れ! 今すぐだ!」
辰夫の声が轟く。
カエデはツバキとローザの手を掴み、辰夫の背に飛び乗る。
その瞬間、巨大な斧が振り下ろされる──!
「させないんだから!」
カエデの叫びと共に、最後の石が宙を舞う。
石は迫り来る斧の柄を破壊し、一瞬の隙が生まれた。
「いまだ! 我にしがみつけ! 行くぞ!」
辰夫は勢いよく大地を蹴り、空へ飛び立った。
「くそ! 空に逃げられたー!」
「お、おえー! 俺たちがサクラ様に粘着されるぞー!?」
「お、俺!帰ったら幼馴染にプロポーズするんですよ!」
背後では魔王軍の怒号と絶望の悲鳴が響く。
カエデは必死に叫ぶ。
「辰夫さん! 右! 今度は左! 気をつけて!」
「くっ……まだだ! 諦めるな!
我々の運命は、我々自身で切り開く!」
彼らの命運は、青空と靴下探索隊の間で、
一本の糸のように細く、それでも強くつながっていた。
……はぁ?
*
──同時刻。サクラサイド──
……ポロン……♪
「……辰美……?」
サクラはピアノを弾くのをやめ、
目をつむり一呼吸すると辰美を見つめた。
「はい。分かってます」
辰美は静かに頷いた。
「行くわよ……」
「……はい」
二人は目を合わせて深く頷く。
「「……食堂に!」」
2人はニッコニコで食堂に向かった──。
──そう。お昼ご飯の時間なのである。
「今日のメニューは何かな? 何かな?」
「ふふふ! 楽しみですねーw」
サクラは廊下をスキップしながら、
ふと窓の外の青空を見上げた。
「あーあ。ほんと、世界が平和だったらいいのにねぇ」
「そうですねぇ」
「片足しか靴下履いてないからさ。
足元スースーするわ。誰か探してきてくれないかなー」
「サクラさん、靴下買えば解決しません?」
「……あ!」
「……」
「ねね!街に百均あるかな?」
「なんですかそれ?」
「世界一ワクワクする場所よ?」
(つづく)