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焔が異世界に飛ばされ、そしてリアンが、そんな彼に『召喚魔』として召喚されてから三日目の朝になった。
前日。寝呆けに寝呆けて夢見心地のまま焔におイタをしたうえ、それをすっかり『夢だ』と思い込んだまま昼過ぎまでぼぉとしていたリアンが嘘みたいに、今朝はめちゃくちゃ早起きをしている。連日の行為によってたっぷりと、過剰なまでに高品質な魔力を補充出来たおかげですこぶる体調がいいのだ。
そりゃもう、生活リズムを一気に一新してしまうくらいに。
この世界のみで使える『魔力』どころか、本物の『鬼』である焔の精液をしこたま飲んだのだ、納得の結果である。
対して、体力も精力も搾り取り尽くされた焔はまだ眠ったままで、リアンの真隣で寝息をたてている。まだ朝も早いので『寝坊だ』と責められるような時間ではないが、彼よりも先に起きるのは無理だったみたいだ。
リアンがたっぷりと主人の体を堪能し、風呂場からベッドへ移動してからは、なし崩し的に二人で一緒に眠った。無茶をさせられてしまい、どちらも気絶するみたいな寝入りだったせいか、眠っているのに焔の眉間にはシワが入っていて険しい顔付きだ。
「可愛いなぁ、お前は」
寝そべったままの体を横向きにして、リアンが添い寝をするみたいな体勢になる。目元はやっぱりぐるぐると布が巻かれたままで見えないが、そんな姿すらも今では可愛く思えてしまう。最高値まで上がった『好感度』の成せる技というよりは、コレはもう自分自身の心の問題だと、焔の楽しくなさそうな寝顔を見ながらリアンは確信した。
元の世界では何者なのか。
不正行為をして、化け物並みなステータスからのスタートをしたチーターなのでは?
本当の姿のまま冒険をする世界のはずなのに、この容姿とは。本来の彼はどんな容姿なのだろう?
焔が『本物の鬼』なのだという答えに辿り着きようが無いせいで解消出来ない疑問は多々あれども、寝顔を間近で見られるだけでそれらが瑣末事に感じられ、段々とどれもこれもがどうでもよくなっていく。鬼の容姿なのに可愛いと思え、淡々と話す落ち着いた空気感にひどく懐かしさを覚えてしまう。
愛おしい、傍に居たい、一刻でも早く深く深くまぐわいたい——
焔の肌に触れるたび、そんな事を強く激しく思ってしまう。まるで渇きに渇いた魂が、もっと彼を自分に寄越せと叫んでいる様にまで感じられた。
(いやいや、まぐわいたいとか……いつの時代の表現だよ。早くコイツのケツにぶち込んでみたい、の間違いだろう?ったく)
不思議と古臭い言葉を当て嵌めてしまいたくなる衝動を、首を軽く振ってリアンが掻き消す。だけど最後まで抱けていないせいで感じてしまう渇きまでは当然消せなかった。
「んっ……」
口をへの字にして焔が声をこぼした。『起きたのか?』とリアンは思い彼の顔を覗いたが、どうやら寝言だったみたいだ。
(起きている時はどんなに快楽に溺れていても、最後までとなると、結局は死守されて出来ないままなんだよなぁ。惚れた弱みもあってか、駄目だと必死に言われりゃ無理にスル気にもなれないし。だけど眠っている今だったら、最後まで抱いてしまっても、事後報告で済ませられやしないか?最高に気持ち良くしてやって『これも魔力の補充の為だ』と言い張れば、何だかんだと許してくれるんじゃないだろうか?)
そんな事をリアンが考えていると、焔がまた「んぁ……」と呟いた。今度こそ起きたのか?それにしては随分と甘い声に聴こえる。もしかして、淫夢でも見ていて、喘ぎ声が現実でも出てしまったのだろうか?
「どんな夢を見ているんだ?おい」
起きているのが自分だけなせいで口調は悪いが、焔の頭を撫でるリアンの手付きはとても優しい。愛おしさに溢れていて、主人に対してというよりはもう、完全に恋人への扱いだ。
「……りゅぅと……」
『りゅうと』という響きを聴き、リアンの肩がビクッと跳ねた。
竜斗。 ——それは、リアンの本名だ。
何故その名前を焔が口にしたのか全く分からず、動揺してしまう。だけど、小声だったから、もしかしたら聞き間違いかもしれない。絶対に自分は、焔にもソフィアの前でもその名前を口はしていないはずだ。それこそ部下の前ですらも。なのでその名前を焔が知っているはずは無く、口に出す事も不可能なはずだ。 だけど『……そういや俺は、焔がどこまでこの世界の事を知っているのかすらも、わかっていないんだったな』と思い出し、少し悔しい気持ちになった。
もぞっと腰を軽く動かし、「そ、ソコは触るな……ヤリす、ぎ……だから」なんて甘い色を帯びた寝言を言われ、リアンの血管が切れそうになる。
「——焔様!起きて下さい、もう朝ですよっ」
ちょっと待て。夢の中で、誰と何をしてんだ、コイツは!夢だろうが俺相手じゃなかったら許さねぇぞと思いつつ、リアンは焔の肩を激しく何度も揺すった。
「……ん?」
揺すられた事で焔が目を覚ます。だが夢の中から急速に引き上げられたせいか脳内が動いていない。目隠しをしているせいで彼の視覚は奪われているので、神通力を使って意図的に見ようとしないと視界は真っ暗なままだ。そのせいか、寝呆けた状態からなかなか覚醒出来ない様だ。
眠そうな顔のまま「あぁ、何だ。そこに居たのか……」なんて言いながら胸の中にすりすりと縋り付かれ、リアンの額の血管は再び嫉妬心のせいで限界を超えそうになった。
だが同時に嬉しくもある。
普段はツンッとした猫が急に甘えに甘えてきた時の様な気分になってしまい、相反する感情が頭の中で大戦線を繰り広げてリアンの体が硬直してしまう。
「一緒に……寝ようか、なぁ?」
顔を胸元から少し離し、上目遣いで見てきているみたいな空気感を漂わせながら、甘えた声で焔が言った。
(どっちに言っている? 夢の中の相手か、それとも俺になのか?)
ちょっとだけ判断に苦しんだが、前者であるに違いないという考えの方へ軍配が上がった。
「焔様、朝ですから起きましょう。濃いめのお茶でも淹れてきましょうか?」
肩を強めに掴み、少しだけ距離を取る。そして無理矢理焔の体を起こし、「ほら、着替えましょうねー」と声を掛けながら、ペタンと子供みたいにベッドで座る焔の寝衣を脱がせ始めた。
朝日に照らされた焔の白い肌に昨夜の痕跡が多数残っている。キスマークやら噛み跡やら、引っ掻いてしまったであろう傷跡まであり、それらがリアンの一方的な激しさを物語っていた。
(ヤリ、過ぎたな……)
リアンが肩を落とし、申し訳ない事をしたかもと心の中で詫びを入れる。だけど充足感の方がすぐに勝ってきて顔が勝手にニヤケだした。
「あー……離せ、自分で出来る」
眠そうな声のまま、リアンの手に手を置いて、脱がせようとするのを焔が止めた。だがもう焔の寝衣はほとんど脱がされていて、今はボクサーパンツの様なデザインをした下着一枚の上に、浴衣みたいな寝衣を羽織っているだけの様な感じになっている。そんな格好のうえ、目隠しをしているせいで、何だかリアンは特殊プレイに挑む前の様な気分になってきた。
(いや、待て。違う違う、落ち着け。だけどその解いた帯で両足を縛って『朝立ちしているコレを私が癒してあげましょうか?』と言って今すぐにでも愛してしまいたい!)
全然落ち着く気の無い事をリアンが夢想する。明らかに彼が怪しい妄想をしているのを察した焔は、リアンの頭を軽く叩いた。
「あいたっ!」
「また馬鹿な事を考えていたんじゃないのか?お前は」と言った焔の呆れ声は、もうすっかり覚醒している者のものだった。どうやらリアンの怪しさ全開っぷりのおかげで目が覚めた様だ。
「後は自分で出来るから、もうお前も着替えたらどうだ?」
寝衣の前を整えて前を隠す。桜色をした愛らしい胸の尖りが見えなくなり、リアンはあからさまにガッカリした顔になった。
「着替えのお手伝いをしましょうか?」
「ははっ。お前もまだ寝衣なのにか?」
「では一緒に着替えましょう」
「……一緒である意味はわからないが、まぁいいか」
二人揃ってベッドから降りてクローゼットの中からリアンが二人分の着替えを取り出す。下着類と共に彼が持っているのは焔の私物である着物ではなく、いかにも魔法使いが着ていそうなローブを主軸とした様な衣装だ。
リアンの分は動きやすいラフそうな物で、豪華な物ではない。どれもコレも低レベルでも作れるっぽい品だが、初期に持たされていた物よりは断然お洒落なデザインをしている。
「焔様、焔様。今日はこちらを着てみませんか?」
綺麗な水色と白をベースにした服を差し出され、焔はちょっと懐かしい気持ちになった。オウガノミコトが着ている陰陽師の様な衣装を思い出したのかと思ったが、何だが違うような気もする。
「……このデザインはお嫌いでしたか?」
じっとして動かない焔を心配し、リアンが声を掛けた。
「あぁ、いや違う。着てみるか。昨日見せられたボロクソな物より断然マシだしな」
服を受け取り、早速それに着替えていく。裸足だった足には革製のブーツを履き、腕にはマジックアイテムっぽいブレスレッドをはめ、白い手袋も追加で渡された。
「お似合いですよ、焔様」
(こんなに色々いつの間に用意したんだ、コイツは。宝石も使った衣装じゃないか。素材はどこから入手したんだ?)
焔は不思議に思ったが、クローゼットの中からリアンの衣装が無くなっている事に気が付き、全てを察した。『 こんな物は受け取れない』と言おうと思い、慌てて焔がリアンの方へ顔を向ける。すると、もうすでに質素な冒険者風の格好に着替えた彼がニコニコと嬉しそうに笑っていて、焔は何も言えなくなってしまった。
(今夜は、俺の作った衣装を着ている焔を脱がす事を考えるだけで、何だか興奮してくるな!)
卑猥な事を考えている本心を『笑顔』という名の『仮面』でリアンが完璧に隠す。
「私の服はもういらないので分解しましたが、その分、焔様にお似合いの衣装を用意出来たのでとても嬉しいです」
「……やってしまった事を責める気はないが、良かったのか?こんな事をして」
「もちろんですよ。私は貴方様のお役に立ちたいだけですから」
「そうか、ありがとう。大事にさせてもらう」
脱がしたい。だから着せる!それしかリアンは考えていない事を、焔は全く読み解けてはいなかった。
「——そういえば、焔様」
「何だ?」
着替えを終えた二人が部屋を出て一階へ向かう。
「『竜斗』と聞いて、何か思い当たる事はありますか?」
リアンが不意にそう問い掛けると、焔は肩を少し跳ねさせながら立ち止まり、ゆっくり後ろを振り返った。
「……『リュート』?あぁ、ヨーロッパの楽器だろう?それがどうかしたか?」
「……い、いえ、いいんです。知らないのなら、それで」
「なんだ、弾いてくれるのかと期待したのに。違うのか」
「すみません。あ、でも、ハープでしたら少し弾けますよ」
「そうなのか?音楽は好きなんだ。今度機会があったら是非聞かせてくれ」
「はい、喜んで」
笑顔を交わしながら二人がそんな話をする。だがしかし……焔は笑顔を浮かべながらも、胸の中でに些細な異変を感じた。
(……リュウト?りゅうと……竜、斗…… )
焔の耳の奥で同じ言葉が鳴り響く。自分の中でその言葉を繰り返すたび、焔の心に建てられた強固な防波堤に微々たるヒビが入っていく気がした。