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🌙 Scene 30:最初の一文字が打てない
DMの画面を開いたまま、
しばらく動けなかった。
「お久しぶりです。
作品、拝見しました。」
その二行が、
胸の奥にじんわり広がる。
優しい声で言われたように感じる。
あの頃と同じ、
落ち着いた、安心する声で。
でも──
返事を書こうとすると、
指が震える。
返信欄を開く。
白い入力スペースが、
静かに待っている。
「……どうしよう……」
返したい。
でも、怖い。
でも、返したい。
気持ちが胸の中でせめぎ合う。
深く息を吸った。
スマホを両手で包み込むように持つ。
そして、
そっと指を動かす。
「こ…」
たった一文字。
でも、その一文字を書くだけで、
胸がぎゅっと締めつけられる。
「……こんなに緊張するなんて……」
あなたは画面を見つめたまま、
小さく笑ってしまう。
嬉しくて、
怖くて、
懐かしくて、
どうしようもなく温かい。
その全部が混ざって、
胸の奥が静かに揺れている。
私はもう一度、
ゆっくりと指を動かした。
「こんばんは。」
その一行が、
気持ちをそっと形にした。