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____数十分前の話だ。
ショウはヒロユキを易々と担いで全速力で俺の所に来てゆっくりと置いた。
「とりあえず応急処置はした、コイツを見ておいてくれ」
「うん!わかった!__っ!?」
返事をすると俺は抱きしめらる。
「あ、あの、ショウさん?」
「…………キスは無しだ、抜け駆けしたらアイツに怒られる」
その後、何も言わずに走っていった……え?俺今どういう感情すればいいの?
______そんなやり取りが先ほどまであった。
なんなら鎧の上からだったがまだショウに抱きしめられた温もりを感じている。
「っ!?うっ……」
俺は湧き上がってきた吐き気を抑え込む。
倒したはずのメルピグは自分の血を流しながらもツタの先にあった“肉”を口に入れ、硬い物を噛む様に、それか勝利を確信して嘲笑うかの様に歯茎を見せながら肉を歯ですり潰していってる。
「うぅ……おぇ」
自分の口に母指球を当てて噛み必死に目の前の光景を見ても吐かない様にする。
メルピグは【ショウ】を飲み込んだ。
「ひっ……」
俺は恐怖で足がガクガクと震えだし、立っていることすら出来なくなり、その場で足が崩れ失禁する。
心臓までもが口から出そうな嘔吐感。
そして、涙が止まらなくなる。
「こ、こわい……こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい帰りたい、日本へ……元の世界に帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい」
【異世界ファンタジー】
__そんな言葉。
__そんなカテゴリ。
__そんな想像の物語。
考えが甘かったのだ、アニメ、小説、漫画。
主人公達はかっこよく敵を倒していく姿。
だが、実際はこのように生死がかかってる。
みんなの様に“勝つこと”が前提ではない世界に自分は居る。
頭に『絶望』の二文字が浮かびあがる。
無理だ……あんなにすごい動きをしてた二人でさえ倒せなかった。
俺に何が出来るって言うんだ!
使える様になった魔法と言えばなんも役に立たない『魅了』
…………どうしろと言うんだ。
メルピグを見ると……倒れたリンをその大きな豚の鼻で嗅ぎだした。
今度はリンが死ぬ……そんな……
思い出すのはこれまでのリンの事。
彼はいつも仲間を思っていた、そして、荷物でしかない俺の事もここまで連れて来てくれた……
俺に関わったばかりに……ここで死ぬ……
俺のせいで……
なんだよ、もう!
「……兄……さん」
「!?」
気絶してるヒロユキが放った言葉で我にかえる。
「ヒロ……」
考えろよ俺!
馬鹿な頭で!そうだよ!俺は馬鹿だ!何考えてもダメなんだ!
それなら!
「これまでの異世界転生した先輩達と同じことをするんだ!」
いつだってそうだろ!
こんな時、俺の脳はマイナスに考える!
だから考えるな!真似をしろ!
俺の見てきた異世界の主人公はみんな“こう言うときにこそ足掻いていた!”
今の俺の全力で!リンを救う!
やるしかない!
あいつは死なせない!
俺は精一杯の力を振り絞り足がガクガクになりながらも立って____
____腰を曲げてお尻をつきだし、人差し指で胸のちくびが見えるか見えないかまでギリギリのラインでボロ布を引っ張り、涙目の片目をウィンク。
たぶん、いや絶対この場でこの空気ではあり得ないようなポーズをとりながら叫んだ。
「『魅了』!」
その瞬間、メルピグの身体のあらゆるところからおびただしい数の触手が一斉に出てきて気持ち悪い姿になり此方へ、走り出してきた。
やっちまった……