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第十六章 月へ還る闇
第六話 闇を抱く者
ひんやりとした空気。
草を揺らしながら駆け抜ける風の音。
身体へ吹き付ける冷たい風が、髪や服を大きく靡かせる。
5人は恐る恐る目を開いた。
目の前には、天へ向かって伸びる一本の光の柱。
その根元に立つ石碑。
そして石碑の背後には、圧倒的な存在感を放つ満月が浮かんでいた。
白く。
大きく。
まるで世界そのものを見下ろしているかのように。
「……白霧山だ」
ハヤトが静かに呟く。
山頂は、先程までいた森の中とはまるで別世界だった。
冬を目前にした冷気。
容赦なく吹き付ける風。
肌を刺すような寒さに思わず身震いする。
「また、ここへ来たな……」
ジュウタロウが辺りを見回しながら言う。
初めてこの場所へ辿り着いた夜。
あの時は何も知らなかった。
けれど今は違う。
ここが何なのか。
何のための場所なのか。
そしてジントが何者なのか。
全てを知った上で、再びここへ立っている。
「寒っ!!」
シュンタが肩を抱く。
「フィルディア並みに寒いやん!」
「いや、そこまでは寒くない」
ジュウタロウが即座に返した。
そんなやり取りをしながらも、シュンタの視線はジントへ向いていた。
「……ジンちゃん、大丈夫なん?」
心配を隠せない声。
ジントは静かに頷いた。
「うん」
不思議と恐怖はなかった。
いや。
怖くないわけではない。
心臓は激しく脈打っている。
足も震えている。
それでも、もう後戻りすることなどできない。
戻る気など、微塵もない。
自分が何をするべきなのかは分かっていた。
だから自然と足が前へ出る。
石碑を背にして歩き始める。
一歩。
また一歩。
満月へ向かうように。
その時。
「ジント……!」
後ろからダイチの声が響いた。
ジントは足を止めて振り返る。
そこには4人がいた。
不安そうな顔。
穏やかに微笑む顔。
信じている顔。
必死に笑おうとしている顔。
全部見えた。
ジントは優しく微笑む。
「大丈夫だから」
黒い瞳がダイチを真っ直ぐ見つめる。
「待ってて」
ダイチの青い瞳が揺れる。
今にも駆け寄りたかった。
けれど堪える。
唇を噛み締める。
そんなダイチの肩へ、ハヤトがそっと手を置いた。
ジュウタロウとシュンタも傍へ寄る。
4人は並んで立った。
8つの瞳がジントへ向けられる。
ジントはその光景を胸へ刻むように見つめた。
そして深く頷く。
大丈夫。
一人じゃない。
そう思えた。
振り返る。
目の前には満月。
巨大な生き物のように夜空へ浮かんでいる。
ジントは深く息を吸った。
冷たい空気が肺を満たす。
そして、向き合う。
その瞬間だった。
吹き荒れていた風が止んだ。
ぴたりと。
まるで時間が止まったかのように。
突然の静寂が辺りを包む。
誰も動かない。
誰も声を出さない。
世界が息を潜めているようだった。
ジントはゆっくりと目を閉じる。
感じる。
遥か遠くから。
世界中から。
無数の声が聞こえる。
行き場をなくした負の感情。
彷徨い続ける魔物達。
誰にも届かなかった悲しみ。
苦しみ。
憎しみ。
絶望。
そして、還りたいという切実な願い。
「…………」
ジントの周囲に瘴気が現れ始める。
どこからともなく。
黒く細い帯のような瘴気。
それは生き物のように蠢きながら、ジントへ吸い寄せられていく。
満月の光に照らされたその姿は神秘的だった。
これまで見たどんな光景とも違う。
黒と白。
闇と月光。
相反するものが共存している。
そこに漂う空気さえも、息を呑んで見守っているようだった。
瘴気はジントへ流れ込む。
一筋。
また一筋。
そして数え切れないほど。
集まった瘴気はやがてジントの身体を取り巻き始める。
黒い霧が渦を巻く。
ジントの身体から溢れ出るように。
周囲から集まる瘴気をさらに飲み込みながら。
どんどん膨れ上がっていく。
巨大な渦。
巨大な闇。
まるで世界中の苦しみを集めているかのような、重たい瘴気。
普通の人間なら、近づくことすらかなわない、恐ろしい闇。
「……っ」
ハヤト達は固唾を呑んで見守っていた。
だが膨れ上がる瘴気は想像を遥かに超えていた。
黒い渦は空へ向かって伸びる。
風が巻き起こる。
圧力が増していく。
まるで巨大な嵐の中心に立っているようだった。
思わず4人は後ずさる。
「ジントっ!!」
ダイチが叫ぶ。
悲痛な声だった。
届いてほしいと願うような声だった。
けれどその叫びは、黒い瘴気が巻き起こす風に掻き消された。
渦はさらに大きくなる。
さらに激しく。
やがてジントの姿さえ見えなくなるほどに。
黒い嵐が、白霧山の頂を覆い尽くしていった。
コメント
1件
おおお、第31話読み終えたよ〜!!✨ もうね、最初のひんやりした空気感から一気に引き込まれた…! 白霧山の頂上、満月の下でのジントの決意がすごく伝わってきて、胸がぎゅってなった😭💕 特にダイチの「ジントっ!!」って叫び、めっちゃ切なかった…。 あと、瘴気が渦巻く描写が神秘的で、逆に美しさすら感じたよ…! ジント、頑張れ…!!次話も楽しみにしてるね!🌸