その日健吾はアウトドアブランドの共同経営者である大学時代の先輩・佐伯(さえき)と不動産会社へ行っていた。
新規出店予定地がだいぶ絞り込まれてきた。あとは直接現地へ見に行ってから最終決定という段階まできた。
不動産会社を出た二人は駅ビルの上にあるタイ料理の店で遅めの昼食をとった。そこで久しぶりに二人はゆっくりと話す。
食事を終え佐伯と別れた健吾は駅構内へと向かう。途中近道の為にデパートの中を通り抜ける。
その時目の前の柱にある看板に見覚えのある文字を見つけた。
『bonheurボヌール』
それは理紗子が愛用している香水の店だった。
健吾はすぐその店を探した。館内案内図を見ると店は一階のフロアを抜けた一番奥にあるようだ。
健吾は一階のアクセサリー売り場や化粧品売り場を足早に通り抜けて行く。
女性客ばかりのフロアをスーツをビシッと着こなしたイケメンが通り過ぎて行くのだからかなり目立つ。
健吾とすれ違う女性客は100パーセントの確率で健吾を振り返った。
それは客だけでなく店員も同じだった。
売り場にいる女性店員たちは健吾の顔をうっとりと眺めながらそのイケメンが自分の売り場に来てくれる事をひたすら願う。
しかしそんな彼女達の期待を裏切るように健吾はわき目もふらずにまっすぐ歩いて行った。
そしてフロアの突き当りまで行くと健吾の足が止まった。
そこに『bonheur』の店舗はあった。
健吾は理紗子の身体から漂うあの香りの虜になっていた。
男が一人でこの店に行く必要性など全くなかったが、なぜか無性に店の中を覗いてみたくなった。
店の外観はパリの街角を思わせるようなデザインでとてもお洒落だ。そして少し照明の落ちた店内も素敵な雰囲気だ。
先ほど通り過ぎて来た化粧品売り場とは違いこの空間には特別感がある。
(店に入る前からワクワクさせる作戦か。演出が上手いな)
健吾はついいつもの投資家目線で店をチェックしていた。そして店内へ足を踏み入れた。
店内の客はほとんどが女性だったが一組だけ20代のカップルが仲良く商品を選んでいた。
(男も入りやすい雰囲気なのはなかなかいい)
健吾は感心する。
そこへ30代位の落ち着いた女性店員が近づいて来た。店長のようだ。
他の若い店員達は健吾の事をうっとりと見つめていたので仕事にならないと思ったのだろう。店長自らが接客を買って出たようだ。
「いらっしゃいませ。何かお探しでございますか?」
「ローズ系の香りのを探しているのですが」
「それでしたら『bouquet de roses(ブーケ ドゥ ローズ)』のシリーズでございますね。こちらにございます」
店長は奥のコーナーに健吾を案内した。
「ジェルフレグランスもありますか?」
「こちらでございます」
店長はチューブを手に取り蓋を開けると試香紙に練り香水を塗り付けて健吾に渡した。
健吾がその香りを嗅ぐと理紗子がつけている物と同じだった。
「そのシリーズは今までジェルフレグランスとハンドクリームしか販売していなかったのですが、今月からはシャンプー、コンディショナー、ボディソープ、ボディクリーム、リップクリームと全シリーズが新しく出たんですよ。」
健吾はそれを見せて貰う事にする。
石垣島のホテルの洗面台に置いてあった理紗子のボディクリームは、確か無香料のなんでもない普通のボディクリームだったような気がする。
だからこのボディクリームをプレゼントしたら喜ぶかもしれない。ヘアケア用品も揃えれば、さらに全身が良い香りに包まれるだろう。
店長は新シリーズの中からボディクリームとリップクリームを手に取ると更に説明を始めた。
「こちらは香りだけでなく味も楽しめるようになっているんですよ」
「味?」
「はい。女性が唇や身体にこれを塗ると香りだけでなく甘いローズの味が楽しめるようになっております。お口に触れるものですからもちろん成分は食べても安全な無添加の物で作られています。リップクリームもボディクリームもパートナーの男性の方に楽しんでいただけるようにと遊び心を持って作られた物なんです」
店長は説明を終えるとニッコリ笑った。
(味わって楽しむ? つまり男が女の身体を舐め回す事を考えて作られているっていうのか? マジか?)
健吾はクリームを理紗子の身体中に塗りたくり自分がそれを舐め回している所を想像して思わずゾクゾクッとした。
(これは買いだな)
健吾は新発売のボディクリームとリップクリーム、そして理紗子が使っているジェルフレグランスとシャンプーコンディショナーのセット、そしてハンドクリームの全種類を買うことにした。
これを理紗子へプレゼントして彼女をこの香りまみれにしようと健吾は企んでいた。
健吾がクレジットカードを渡すと店長は笑顔を浮かべて言った。
「ありがとうございます。ただいまプレゼント用にお包みして参りますのでそちらにお掛けになってお待ち下さいませ」
健吾は店の壁際にあるソファーへ腰を下ろすと店内を見回した。
するといつものように買物に来ていた女性客がチラチラと健吾の方を見ている。中には友達同士健吾を見て頬を染めながらひそひそと話している客もいた。
しかし健吾は特に気にする様子もなくスマホを取り出すとSNSのつぶやきサイトで今買った商品の評判を見てみる事にした。
すると続々と呟きが表示される。
【コレを塗ったら彼に全身舐められちゃった♡】
【これを買ってから夫婦の夜の営みが増えましたー♡(*^▽^*)♡】
【このクリームをプレゼントされたら、つまりそういう意味なんだよねー♡】
健吾の思惑と合致する投稿が沢山投稿されている。
(俺はなかなか良い買い物をしたかもしれない)
そう思いながらニヤリと笑った。
しばらくすると綺麗にラッピングされた商品を受け取った。
健吾は店を後にする際店長に向かって、
「ありがとう!」
と言葉をかけると颯爽と駅へ向かって歩き始めた。
健吾が店を出た後店内にいた女性客達からは一斉に「ほーっ♡」というため息が漏れた。
コメント
3件
健吾、しっかり全種類プレゼント目的でお買い上げだけど、使用中に理沙ちゃんの体をペロペロ舐め回しちゃう妄想が膨らみすぎて、その時に理沙ちゃんに引かれないよう気をつけてね😊🤭🤣💕❤️💓 女子の視線を一身に受けるイケメンも愛する理沙ちゃんとのイチャコラ妄想で頭がいっぱい笑🤭💓
いや〜ん♥️健吾〜♥️ なに想像しちゃってるの〜ԅ(ಡ౪ಡԅ)テ”ヘヘ♥️ 多分よ…理紗子ちゃんはボディークリームの「ホントの」意味は知らないと思うから、使う時まで知らないでいて欲しいよね〜😅け・ん・ご・さ・ん!ぷぷぷ(,,>ლ<,,)プププッー あっでもいつ使って欲しいって🎁した時に言うのかな⁉️健吾だもん言うよねー🫧🫧🫧
理紗子ちゃんを舐めまわす気満々で、何と全種類をお買い上げ~🌹🌹🌹♥️♥️♥️🤭w もぉ~❤️健吾さんの ○ッチ....💏😘💋💕🤣🤣🤣 これが大活躍する日が すぐに来ると良いね🌹💖😁