トラッパーの部屋の中に入ると同時に、腰が抜けた。
怖い…怖いっ…!
「うぅっ…ぅ…ぁああ!」
もう嫌だ…こんな事。
泣かないって決めたばっかりなのに…。
「全部ゴスフェのせいだ…!!」
殺してやる…絶対に!!
「でも……」
今の僕じゃ…ゴスフェは倒せない…ナイフ投げも上達してないし、そもそも無慈悲すら取れてない。
「このままじゃダメだ。」
僕は立ち上がり、2つ誓いを立てた。
「まずはゴスフェから距離を離そう。それから無慈悲を取るためにナイフ投げを頑張って…。」
最初は難しいかもしれないが、これも僕が自立するための試練だ。
それに…今は支えてくれる人はダメもいないんだし…。
「くじけるなよ、トリスタ!お前はすっごくクールで強いんだから!」
自分を励まし、僕はあの邪神の居る場所へ向かった。
「エンティティ様」
《なんだ?》
嗚呼、この声は嫌いだ。
まるで僕の心を全て見透かされている感じがして気持ち悪い。
「少し頼みがあるんです。」
《ほぉ。》
「僕の部屋を、別の場所に移させてくれませんか?」
まずはゴスフェから距離を離さないと。
《なぜ?》
「あなたも知ってるでしょう?僕がゴスフェに何をされたのか。それを知ってるなら理由なんて要らないと思うのですが。」
《ふむ…今は空き部屋はない。ここから少し離れた小屋になるが、構わないか?》
「もちろん!!」
やった!今は運が着いてる!
《なら貴様の使っている家具はそこへ移しておく。これは小屋の地図だ。》
そう言いながらどこからか地図を渡してくれた。
「ありがとうございます!」
ん?何か変だ…あの邪神が、こんなに易々と僕の要望を受け入れるなんて…。
「あの…」
《なんだ?まだ何かあるのか?》
その言葉に若干怖じ気づくが、勇気を出して聞いてみた。
「何故そこまで僕の頼みを聞いてくれるのですか?いつもなら対価を望んでくるはずなのに…」
《…ははっ!やはりお前は勘が鋭いな。いいぞ?答えてやる。》
そう言うと、彼は黒い霧のような物を僕の目の前に持ってきた。
《よぉく見てみろ。》
「ん?…あ!」
トラッパーとゴスフェ!?
「なんで二人が戦って…キラー同士の戦いは禁じられてるはずじゃ…!?」
《彼らは今、お前のために命を懸けて戦っているのだ。》
「僕の…ために?」
一体どうして?
《ゴスフェはお前を自分のものにするために。そしてトラッパーはお前を守るために戦っている。》
「そんな…」
《どうした?嬉しくないのか?》
「ぼ、僕は…もう誰も巻き込みたくないんです…。」
《じゃあどうする?己の身をゴスフェに捧げるのか?》
「そ、そんなこと…!!」
するはずない…でも最後まで言えなかったのはどうしてなのか…。
《一つ言わせて貰おう。お前は物事に逃げすぎている。》
「は?」
逃げてる?僕が?
《お前の発言は矛盾しすぎてるのだ。ゴスフェと距離を離そうと部屋を移動させたのに、別の者がお前を守ってくれると分かったら『誰も巻き込みたくない』?甘えたことを言うのも大概にしろ。》
正論だった。
やっと気づいた。
そっか…僕はずっと逃げてたんだ…。
《はぁ…ま、決断はお前に委ねるとするか。とにかく言えることは、お前は私と同じくらい強欲だと言うことだ。》
彼なりのジョークなのだろうか。
でも何故だろう。
その言葉が、さっきまでのモヤモヤを消してくれるような気がした。
《それで?お前はどうするんだ?》
「僕は…もう逃げない。何でも受け入れて見せる!」
《そうか。》
「ありがとうございます…」
一礼をしてその場から出ようとしたその瞬間…
《一ついいことを教えてやる。》
そう言って呼び止められた。
「はい?」
《ゴスフェは、そう易々と獲物を諦める様な質ではないぞ?》
「っ…はい」
その言葉に肌が粟立つが、受け入れることにした。
《はぁ…私も随分甘くなったものだな…。それにしても比奴ら、こんなに必死で戦うとは…相当あの男の事が気になるのだな。トリックスターも中々の鈍感だな。これからが楽しみだ。》
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