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第6話:世界一誰にも頼れない人
> 「あなたは、“世界一誰にも頼れない人”に認定されました。」
ユウマ、22歳。
色褪せたフード付きパーカーに、細身のジーンズ。
手にはいつも何かしらの荷物を抱えている。
日雇いの仕事をいくつも掛け持ちし、生活保護も家族の支援も受けていない。
口癖は、「大丈夫、ひとりでやる」。
助けを求めたことは一度もなく、いつも背中を向けていた。
ナンバーワン社会では、“自立”が美徳とされ、
「頼らない力」がランキング上位として賞賛されていた。
“自分一人で稼ぐ力”“相談しない精神力”は、SNSでバズり、
自己責任の象徴としてユウマの名前が一躍拡散された。
> 「誰にも頼らない。それが、世界一の強さなんだろ?」
だが、その言葉の裏には、誰にも言えない“孤立”があった。
ある日、ユウマが荷物を抱えて歩く中、前方から自転車が突っ込んできた。
避けようとした瞬間、足をひねり、崩れるように倒れ込む。
その手を引き上げたのは――ミナだった。
赤いリュックを背負い、ポケットにはカロリーメイトと湿布。
「ちょうどいい。“誰にも頼れない人”に頼みたいことがあって、来たんですけど。」
「……今このタイミングで? マジで?」
「うん。“助けて”って言う代わりに、私が“頼る”から、貸し借りゼロでしょ?」
そのまま、ミナはユウマのアパートを“訪問”。
壁には修理途中の換気扇。冷蔵庫は空。
それでも彼は笑っていた。
「この状態で“誰かを助ける”とか、頭おかしいよな」
「頭おかしくていい。
だって、私が“誰かに頼りたくなるナンバーワン”目指してるから。」
その夜、ミナが倒れた。熱中症だった。
ユウマは即座にタクシーを呼び、冷却パックと水を用意し、
自分が点滴に付き添った。
「……大丈夫か?」
その声は、震えていた。
翌朝、ユウマはミナにおにぎりを差し出した。
「……貸し借りゼロ、な?」
「ううん、ちょっと借りたかも。でもそれでいいの。」
そしてその日の午後。ユウマのスマホに通知が届いた。
> 「あなたは、“世界一、誰かに頼らせることができる人”に認定されました。」
END