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第7話:世界一過去に戻りたい人
「あなたは、“世界一過去に戻りたい人”に認定されました。」
通知が映るスマホを、スズカは何度も見返した。
画面はにじんでよく見えない。涙が止まらなかった。
30歳。深い藍色のコートに、乱れた長い髪。
指先は震え、スーツケースを抱えて夜の駅に立ち尽くしていた。
3年前。たった一言を言えなかったせいで、大切な人を失った。
後悔は止まらず、夢の中で何度もやり直す。
「“戻りたい”が毎日を殺していく。」
ミナはその投稿に気づいた。
「戻りたい人へ。
私は、“今をやり直す”専門です。」
スズカとミナは、廃ビルの屋上で出会った。
ミナはジャンパー姿、スニーカーを鳴らしながら笑う。
「ここ、高校の屋上に似てるんだって。“やり直す”にはちょうどいい高さ。」
「……飛びたいわけじゃない。」
「私も止める気ない。でも、飛ぶ前に“ちょっとだけ走る”のはどう?」
ミナが指差したのは、空き地の中央に置かれた電子パネル。
“後悔を1つだけ、打ち込め”という表示。
スズカは震える指で打ち込んだ。
「言えなかった。『好き』って。」
すると、パネルが点滅し始め、ドローンが現れる。
スピーカー付きの中型ドローンが、光を放って宙に浮いた。
ミナが操作パッドを渡す。
「この“空のマイク”、あんたのために準備した。
言えなかったなら――“今”叫んでみてよ。」
風が強まる中、スズカはゆっくりと前に出る。
涙を拭い、声を張った。
「好きだった! あなたが好きだった!
逃げたのは私のほうだった!
でも、今ここにいる私が――
それを叫んでる。届かなくても、届かせたかったって!!」
叫びは夜空に響き、遠くのビル壁に反射し、誰かの心に届いたようだった。
ミナはスズカに寄り添い、言った。
「過去には戻れないけど、“叫んだ今”は明日につながってる。
これが、“更新された時間”だよ。」
後日、スズカの端末に届いた通知。
「あなたは、“世界一、過去を悔いて今を変えた人”に認定されました。」
END