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太宰の口から溢れるアネモネはもう鮮やかな赤色ではなかった。
真紅のアネモネが路上の泥を美しく汚していく。
「…中也、そんな顔しないでよ」
太宰は力なく壁に背を預け、ずるずると崩れ落ちた。
中也はそれを支えることもできずただ立ち尽くす。
先程の口づけに救いなんてなかった。
中也がどれほど太宰を求めても太宰の肺に根を張った「誰か」への想いは中也の体温では溶かせなかったのだ。
「誰なんだよ…手前が命を捨てるほど想ってる相手は…ッ!」
絞り出すような中也の問いに太宰は血の混じった花弁を吐きながらひどく穏やかに微笑んだ。
それはポートマフィア時代にも探偵社に入ってからも中也が一度も見たことのない純粋な「愛」の形。
「内緒だよ」
「君に教えたらきっと君は…自分を責めるから」
「あ?」
太宰の細い指が中也の頬に触れる
その指先が中也の涙を掬い取る前に力なく地へと落ちた
「…最期くらい格好つけさせてよ」
「私の唯一の相棒」
最期の呼吸と共に太宰の口から大輪のアネモネが溢れ出す
それは中也の足下に転がり、まるで捧げ物のようにも見えた
動かなくなった太宰を抱きしめることもできず中也はただその花びらに触れる
その花言葉を中也は知っていた
「あなたを信じて待つ」…そして「君を愛す」
「ふざけんな…勝手に死んで勝手に愛してんじゃねぇよ…クソ太宰」
夜の横浜
静寂だけが中也の慟哭を包み込んでいた
次話「後日談」で完結です