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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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ミヒは、ただ、様子のおかしいチホを伺うしかない。


「私は、ジオンに斬られた。気がついたときには、あなたのお姿はなかった。ご無事だったのですね。私一人、生き残ってしまったと悔いていたが……」


言うチホの手は……震えている。


何が起こったのか……。


斬られた?


背中に傷が……。


「……走ったのよ……私……。言われたとおりに……」


男の声がした。


確かに、走るように言われて……。


胸が踊った。あんなに走ったのは久しぶりだった。


「私……言われて……」


「あの時言ったのですよ。走るように。逃げるように」


「逃げるように?」


「……私は、キル。あなたのしもべ」


自分を押さえつけた男が、かしづいていた。しもべと言って、ミヒに頭を垂れていた。


男が……あの時いた。


夢の中に?


あの時?


しもべ……。


……キル。


見ていたのは、


いったい、何を……。


何を見ていたのだろう。


夢は、何?


チホは、背中に傷を受けている。


ジオンが、ジオンが剣を振るっていた。


チホ?


傷?


何……?


いったい、何なの!


ミヒの体中の血が、ザッと引く。


ジオンは夢を嫌った。


なぜ?


それは……。


それは……。


……夢の意味が、見えた。


それは、


記憶!


ジオンは……!


「で、でも、私は、育てられたのよ!愛されていたのよ!あなたは、私を……!私を拐った!」


チホに向けられる瞳からは、たちまち涙が溢《あふ》れ出した。


かきむしられる胸――。


夢は……。


夢は……!


知ってしまった事実は、あまりにも残酷でせつなすぎた。


恋しいと思い続ける男は、誰――?


愛しいと、すがっていた男は……、ミヒの命を狙った。そして……自分を不幸に突き落としたと思っていた男こそミヒを守りぬいた。


チホの背中の傷は、ミヒを守るために受けたもの。


日々恋しい思いを募らせているジオンによってつけられたもの。


腫れ上がる……傷痕。


「どうか、泣かないでください」


チホは、泣き崩れるミヒの手をとる。


(……どうして、この娘に惹かれるのか。辛抱強く抱きしめることができたのか、やっとわかった……。)


しかし。


信じられない。どうして、いまさら。


ミヒの細い指は、震えていた。


指だけではない。彼女自身、何かから逃れようとばかりに……震えていた。


「私、私……」


嗚咽するミヒを、チホはしっかりと抱き止めた。


「私が見ていたのは……」


ミヒの呟きに頷くチホは、本来の姿、主人を守る従者に戻っていた。


――ミヒは、ミヒでなく、チホは、チホでない――。


では……誰なのか……。


行き場のない思いが闇の中をうごめいた。


空が朝焼け色に染まり、眠れない夜は明けた。


二人は黙って寄り添い、皮肉なめぐり合わせを噛みしめている。


「お忘れください」


外から、どさり、どさりと雪がしずれる音が響いてくる。


「よろしいですね?」


チホは確かめるよう声をかける。


ぴくりとミヒの体が動き、むさぼるように、チホの唇を求めた。


「いけません。わかってしまえば、抱けないものです」


ミヒの指が宙を掻く。


チホに押しとどめられた細い指が彼の背で、たゆたう――。


胸の思いをどこへぶつけていいのかと、瞳は涙で潤んでいた。

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